墓石から伸びる白い手
投稿者:STRIKE (5)
短編
2021/08/24
21:49
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これは、私がかつて自転車でアルバイトに通っていた時の出来事です。
当時住んでいたアパートは近くにお墓がありました。アルバイト先への行き帰りは、そのお墓の横を通り過ぎる様になっています。
ある日、すっかり夜も更けてバイト先から帰っていた際、ふいにお線香の匂いがただよい鼻腔をくすぐりました。
私はすぐ先に例のお墓があると思い当たって、誰かがお墓参りに来たのだろうと思い、何も考えずにお墓の方へと視線を移しました。
すると、奥手にある墓石からすうっと、白い手が上へと伸びていたのです。
ああ、そこだったのか、と思いました。
ご親族か友人か、縁のある方に参っていただけた事が嬉しかったのでしょう、私が通り過ぎるまで、その手は「ここですよ」とでも言うように少しゆらゆらしながら上へと伸びていました。
私も少し嬉しくなり、よかったですねと目礼を返してその場を通り過ぎました。
恐怖も何も感じず、ただ嬉しかったのだろうな、よかったなとしか思いませんでした。
それからも何度もそのお墓の前を通り過ぎましたが、あの日以来お線香の匂いが漂ってくることも、手が伸びている事もありませんでした。
よくよく思い出せばお彼岸の時期だったので、丁度「帰ってきていた」のかもしれません。
もう何年も前にそのアパートからは引っ越しておりますが、きっとそのお墓の主は今でも、彼岸のお参りに来てくれた事を嬉しそうに手を伸ばして誰かに報告しているのかもしれません。
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