田舎の用水路
投稿者:uya (2)
夏の夕暮れ頃、田舎の街頭もない田んぼ道を歩いていた日のことです。
その日私は、仕事の取材とネタ出しの関係で東北の田舎町へ出掛けていました。
そこは初めて行く場所で、駅前にはチラホラと古びた商店が立ち並ぶ山間の寂れた田舎町でした。
荷物を下ろし早速ホテルを出た私は、日の傾き始めた近隣を散歩し始めました。
人はまばらで、下校途中であろう小学生たちが楽しそうに歩いています。
もう一駅二駅先まで行ってみるのも楽しそうだなと、私は興味本位で電車に乗り込みました。
二駅行った無人駅で下車すると、日はすっかり傾き薄暗くなり始めています。
四方は山が遮り、見渡す限り田んぼや畑。あるいは錆びた小屋と電信柱。
アスファルトだったのはホテルのある駅前だけで、ここまで来てしまうと土の道がほとんどのようです。
相変わらず小学生達が帰路に着く姿が見受けられました。
歩きながらホテルの方へ戻ろうと、来た道を散策していたときのことです。
数人の女子小学生達が何やら騒がしく「やだ」「見ちゃったー!」と会話しながら隣を走り抜けて行きました。
何かあったのかと小学生達の来た方を見やると、
田んぼのわきでランドセルを背負った男の子が一人、用水路の横で慌てふためいていました。
必死に水の中に手を入れたり周りをみて「誰か!」と叫んでおり、嫌な予感がした私はすぐさま駆け寄りました。
どうかしたのか?と、声をかけながら男の子の手元を見て私は凍りつきました。
少し広めの用水路の中に、ランドセルを背負った男の子がうつ伏せのまま沈んでいたのです。
残念ながら水に沈んでいる彼はとても生きているようには見えませんでした。
力なく水底にへばりついて、白くなった手足がだらりと水流に揺れています。
助け出そうと思いましたが、用水路の幅が思ったより広く深いこと、草の生えた大きな段差に足を取られることもあり、急速にあたりが暗くなっていくなかで二次災害を懸念しました。
私は用水路のわきにいた少年を安全な場所へ呼び寄せてすぐに救急車を呼びました。
電話はすぐに繋がり
「どうされました」と女性の声が聞こえます。
私は慌てながら、田んぼ道の用水路で少年が沈んでいると伝えると
「住所を教えて下さい」と、冷静な返事。
近くにあった電信柱を調べ、そこに書かれた住所を読み上げると電話越しの女性は
「ああ…よくあるんですよね」
とだけ言いました。
事故が多いところなのだろうか…。
先程の斜面を見ながら少し納得をしたものの、のんびりしている暇はない。すぐにでも救急車を寄越してほしい。
ジジイ「台風7号が来て田んぼが心配だから見てくるンゴ」← 過失自死w