田舎の用水路
投稿者:uya (2)
私の焦る声とは裏腹に、電話口の女性はゆっくりと「一応これから向かわせます」とだけ言った。
一応?
子供の一大事に一応とはどういうことだ。
電話を切るとあたりは完全な暗闇になっていました。
住所を読み上げた電信柱にもレトロな街灯がくっついてはいましたが、壊れているのか光る事はありません。
隣にいる少年がかろうじて見えるくらいです。
先程まで落ち着きなく用水路と私を見比べていた少年も静かになり、とぼとぼと用水路の様子を見に戻っていきました。
私も後を追い用水路の中に沈む黒いランドセルの少年を見ます。カラフルなTシャツが水に揺れていました。
程なくして救急車がやってきました。
何故かサイレンを鳴らすこともなく静かに…。
違和感を感じながらも、こっちですと隊員さんを現場まで誘導し
隊員達はライトを片手に用水路を覗き込むと「いないな」と呟きました。
いないとはどういう事か。
水底を見てくれ、ここにいるだろうと照らし出された場所を覗き込んだのですが
そこに沈んでいた少年は忽然と姿を消していました。
救急車がくる直前までは間違いなくそこにいたのです、ほんの少し目を離したすきに一体どこへ?
慌てた私は、一緒にいた少年を探しました。
しかし彼もまたいないのです。
「溺れていた少年の身なりはどんなものでしたか?」と、聞かれ我に返った私は狼狽しながら
黒いランドセルにカラフルなTシャツを来た半ズボンの、おそらく低学年か中学年の子でしたと伝えました。
もう一人助けを呼んでいた少年がいたんです、と話すと、そちらの外見についても聞かれました。
そこで初めて気付いたんです。
焦っていて考えが及ばなかった。
助けを求めていた少年も同じ服装であったことに。
唐突に寒気がして用水路の向こうを見やると、
同じ服の少年が二人、暗闇の中に立っていました。
いえ、正確には二人ではなく半分ずつ重なり合ったような溶けたような姿で、暗闇の中で首から下だけがぼやっと光っていました。
水の音が遠くに聞こえたかと思うと、
次に瞬きしたときには私は救急車の中でした。
そのまま倒れてしまったようです。
救急隊員さんの話では、十数年前にあの場所で少年が溺死してから、私と同じような通報が何度かあるそうです。
地元の子どもたちの間では有名な怪談話であるようでした。
ジジイ「台風7号が来て田んぼが心配だから見てくるンゴ」← 過失自死w