江戸時代の末頃の話です。
ある貧しい男が、町で高級な洋傘を何本も盗みました。
しかし、男は貧乏暮らし。そんな高級品を持っていては、当然のように周囲から怪しまれます。買い手も見つからず、男は盗んだ傘を抱えたまま、途方に暮れていました。
諦めて家へ帰ろうとした、その帰り道。
突然、ひどい雨が降り始めました。
男は近道をしようと、荒れ果てた山道へ入ります。すると道端に、数体の地蔵が並んでいました。
どの地蔵もひどく汚れており、苔や蔓が全身に絡みついています。中には、顔や体にひびが入り、欠けているものまでありました。
男はその地蔵たちを見て、ふと思いつきました。
農村で語り継がれる「笠地蔵」の話です。
「へへっ……これで恩返しにでも来るかな?」
冗談半分にそう呟くと、男は盗んだ洋傘を何本か、地蔵たちに差しかけました。
そしてその夜。
男は、隙間風の吹き込む古い廃屋で眠っていました。
すると、夜更けに妙な音が聞こえてきます。
ズルッ……ズルッ……。
何かを引きずるような音。
そして、雨音に混じって、かすかな声が聞こえました。
「……ほしぃ……」
「……しぃ……ほしぃ……」
男は飛び起きました。
恐る恐る、ぼろぼろの障子の隙間から外を覗きます。
そこに立っていたのは――
昼間、傘を差しかけた地蔵でした。
苔まみれの体に傘を差し、こちらをじっと見つめています。
男は思いました。
「本当に……恩返しに来たのか……?」
その瞬間。
地蔵の口が、ゆっくりと開きました。
「欲しぃ……」
「もっと欲しぃ……」





















※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。