田舎に住んでいながら、俺は蝉に触れなかった。
コレには一個深いトラウマがある。
地元で1番高いT山ってのがある。
頂上では子供が遊んだりキャンプができそうな広場があって、子どもの頃、夏休みに爺ちゃんに連れてきてもらった。
頂上には山小屋があった。
山小屋というか2階建のログハウスに近い。
一階は車を停めるスペースになっていたので実際に使えるのは2階のみ。
広場に爺ちゃんが車を停めて、従兄弟と鬼ごっこしたりして遊んでた。そんな時、
「あの小屋には入らん方がいいぞ」
と爺ちゃんが車でタバコをふかしながら俺に言った。
そうなの?誰かの家なのかな?
行くなと言われたら行きたくなる。
足の速い従兄弟から逃げ隠れるべく、俺は山小屋の2階に駆け上がった。
意気揚々と山小屋の扉を開けた俺は絶句した。
蝉、蝉、蝉。
天井、床、壁一面におびただしい数のアブラゼミが張り付いていた。真夏の蒸した熱気が顔を掠める。
妙に生臭い湿気が俺を歓迎した。
外の蝉と共にワンワン鳴いてるやつ、抜け殻、力尽きてひっくり返ってるやつ、抜け殻、地面を這ってるやつ、抜け殻、死んでるのかどうかわからないやつ、抜け殻。
俺は訳がわからなかった。
その場で硬直していたんだと思う。従兄弟が俺を怒鳴りつける声がしたところまでは覚えてる。
その先の記憶はあんまりない。
先日航空写真で見てみたら、その山小屋は無くなっていた。基礎だけが残っていた。
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