これは数年前、友人と海に行った時の話です。
県外から数人で車を走らせて向かったのは、決して有名ではないけれど、ポツポツと人がいるような静かなビーチでした。
しばらくは砂浜で遊んだりしていましたが、やがて皆で一斉に海に入りました。
最初は足首が浸かる程度の浅瀬で遊んでいたものの、水に慣れてくるにつれ、膝、腰と、私たちは少しずつ深い場所へと向かっていきました。
友人は海に潜ったり、砂のお城を作ったりと、子供のようにはしゃいでいました。私も、水の浮遊感に何とも言えない心地よさを感じていたのを覚えています。
そうしてしばらく遊んでいました。
ふと、沖の方に目を向けました。
数百メートルほど先でしょうか。波間に何か、小さな物体が浮いているのが見えました。
それは波の流れよりも少しだけ遅く、けれど着実に、私たちの方に向かって近づいてきます。
気になって見つめていると、少しずつ、その輪郭と動きがはっきりしてきました。
人型です。
人の形をした「それ」は、腰まで水に浸かりながら、まるでもどかしい水の中を無理やり進むような、独特の大股で歩いていました。
でも、おかしいのです。
私たちがいる場所でさえ、すでに腹まで水に浸かっています。あんな沖合であれば、普通なら顔を出すことさえ難しいほど深いはずです。
それなのに「それ」は、当たり前のような顔をして、海面から上半身を突き出してこちらへ向かってくるのです。
「追いつかれてはいけない」
直感的にそう感じた私は、その「何か」を真似るように、なりふり構わず大股で、大急ぎで浜へと駆け上がりました。
浜にいた友人に知らせると、彼らにもその異常な光景が見えたようで、皆、顔をこわばらせて急いで帰りの支度を始めました。
しかし、数人分の荷物をまとめるのには時間がかかります。
それがもう、顔の造形まで判別できそうな距離にまで迫ってきた、その時でした。
「ドプンッ」
夕暮れ時、波の音しか聞こえない静かな海に、重い何かが沈む音が不気味に響き渡りました。
まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように、海面はただ静かに揺れているだけでした。
それ以来、私は海へ行くことができません。付近を通りかかることさえしたくないのです。
潮風の匂いを感じるたびに、あの時、背後で聞こえた「沈みこむ音」が耳元で蘇ってくるような気がしてなりません。
皆様も海へ行くときは、どうぞ沖の方にご注意ください。
その深い場所で、誰かが歩いていないか。






























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