中部地方在住のKさんの通っていたT小学校は、何故だか昔から水場の事故が多かったのだという。
年に一度や二度は児童がプールの授業で溺れたり気絶したりで救急車が訪れるし、雨上がりにグローブジャングルで遊んでいた先輩が手を滑らせて複雑骨折した事故もあった。理由は分からないが、昔は亡くなった子もいたという話だ。
彼女から自身のトラウマの話を聞かせていただいた。
三十年ほど前。Kさんは当時小学一年生で、お昼休みに校庭でサッカーをしていた。
校舎を背にした形で水飲み場があり、幾つかが平行に配置されていた。そこで男の子たちが楽しそうにはしゃいでいた。同級生ではなかったが、少し上なんだろうなと思った。笑いながらめいめいがバケツに水を勢いよく入れていた。
その中で一人の活発そうな子が、水をたっぷり入れたバケツを両手で持ち、覚束ない動作で遠心力ごっこを始めた。
「あっ」と友達のSちゃんが水飲み場を指差した。Kさんたちにとっては見たことのない遊びだったため、そちらを一斉に注目した。
男の子は始めのうちは水を盛大に溢していたものの、慣れてくるに連れてぐんぐんぐんぐん速くなっていった。その顔は今日のヒーローは自分なのだと言わんばかりに得意げだ。
「わあ、すごい!」
言って、Sちゃんは勢いよく駆け出した。バケツの子のところに、まっすぐ。
あっ。
男の子が掴んだままのバケツは、Sちゃんの頭部に吸い込まれていった。
ぱきゃん。
一斗缶を硬い物で叩いたような音だった。
Sちゃんは五メートルほど飛ばされ、硬い地面に顔から叩き付けられた。
男の子は一瞬にして顔面蒼白になり、尻餅を付いて回転は停止した。手はバケツを固く握ったままだった。
うつ伏せのSちゃんは、一度だけビクンとのけぞったのち、まったく動かなくなった。首の位置はおかしかった。着ていた白シャツが、首のところから徐々に赤く変色していく様子を、Kさんは口の渇きを覚えながら眺めているだけだった。
騒ぎを聞いて駆けつけた女性の先生は、昼食をげえげえ戻していた。
Sちゃんの傍らには、砂だらけになったスーパーボールみたいな物が落ちていて、砂に赤い筋を描いていた。
Sちゃんは即死だった。
「あの後教室に戻されて本当のところは分かりませんが、あれはSちゃんの顔からこぼれた眼球だったんだと思います」
そう、Kさんは声を震わせながら締め括った。
T小学校は何年も前に閉校になったという。

























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