最初期の自動ドアは単純なものだ。
床に埋め込まれたマットスイッチが、重みを感じたら開く。
つまり、軽い子供などは「存在しない」と判断され、ドアは律儀に閉じた。
それが正しいプログラムだった。
1990年代、このような事故報道が増えた。
「幼児、デパート出入口で意識不明」
「高齢女性、自動ドアに挟まれ死亡」
日常の出入り口がとうとう人の命を奪ってしまったのだった。
これらの事件から自動ドア業界は開閉スイッチのあり方について、改良を迫られる。
赤外線の反射角度、温度差、動体認識。
改良により子供も老人も検知できるようになった。
動くものだけではなく、立ち止まるものも検知できるようになった。
ただそれでも「人間」を正確に検知するのは難しかったので、「人間」と判断できる
形状や温度、挙動パターンなどを機械に学習させるようになった。
膨大なデータを集め今日、ドアは賢くなった。
立ち止まった人を見逃さず、足元の影まで覚えた。
もう誰も挟まれることはなくなった。
ただそこまで進化しているはずなのに、私が住んでいるマンションの
自動ドアは時々おかしな挙動をするのだ。
誰もいないはずの通路でドアが開く。
温度差も、動体もないのにセンサーが反応している。
まるで、今度は見逃すまいとするように。
あの日、見落とした誰かを今ではちゃんと見ているかのように。
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