当時、私はギャルっぽい格好をして、遊んでばかりいる女子大生だった。けれど現実はシビアで、仕送りも少なく、バイト代だけでは全然やりくりできない。服代や遊び代どころか、家賃までギリギリだった。
「マジで金ない……」
スマホ片手に求人サイトを眺めながら、ため息ばかりついていた。
そんなとき目に入ったのが「レンタル彼女募集」の文字。説明を読むと、デートするだけで時給は普通のバイトの数倍。特別なスキルもいらず、ただ相手と楽しく過ごせばいいらしい。
「え、これヤバくない? 神バイトじゃん」
深く考えもせず、私は応募のボタンを押していた。
応募してから数日後、面接を受けた。といっても、大したことは聞かれない。「学生さん?」「お酒は飲める?」「男性と話すの苦手じゃない?」など、そんな簡単な質問に答えただけで、すぐに合格通知が来た。
要は、容姿とある程度の会話力さえあればいい。そんな気楽さが逆に不安でもあったが、「稼げるならいいや」とすぐに吹き飛んだ。
レンタル彼女のバイトを始めると、想像以上にいろんな女の子が所属していた。清楚系、地味系、キャリア風……ギャルは私くらい。「お客さんが指名しない限り、仕事は回ってこないからね」そう説明され、思ったより簡単じゃないことを知った。
そして数日後。ようやく私に「指名」が入った。初めてのお客は、年齢も近そうな普通の男性。「最初だから安心だよ」そう言われ、私は胸を撫で下ろした。
当日、指定された駅に着いた私は、少し緊張して改札を抜けた。周りを見回すと彼がいた。
年齢は二十代半ばくらい。髪型も服装も、特に目立つところはない。清潔感はあるけど、お洒落って感じでもない。第一印象はただひとつ。
「普通」
そのまま口に出しそうになるくらい、印象に残らない男だった。
「あ、○○さんですか?」
「はい。今日、お願いします」
軽く会釈して、二人で歩き出す。緊張しているのは私だけじゃないらしく、彼もどこかぎこちない。だが不思議と、嫌な感じはなかった。
「じゃあ、行こっか!」
私はちょっとハイテンション気味に言う。
彼は「うん、任せるよ」と少し照れたように笑う。
電車に乗って、景色を見ながら話すだけでも楽しかった。
「へー、そんな趣味あるんだ~」
「え、マジで?知らなかった!」
自然に笑い合える時間が、なんだか新鮮で心地よい。
ランチもカフェも、ゲームセンターも…特別なことは何もしていないのに、普通に楽しい。
帰り際、彼が少し照れくさそうに言った。
「今日はありがとう。また会いたいな」
私は少し胸がドキッとして、でもギャルっぽく
「えー、じゃあまたデートしてあげる~♪」
と笑顔で答えた。
























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