ごぅごぅごぅと滝壺に水が叩きつけられている。
この有名な人飲みの滝に、僕は一人で訪れた。
ごぅごぅごぅと鳴く滝に、一匹の鯉が登ろうとしている。
鯉は必死に登って、登って、登って、おちた。
たつたつたつと飛沫が散って、鯉が白い泡抜けあがってきた。
その目は黒く、僕を見ていた。じぃっとじっと僕を見て、
ごぅごぅごぅと泣く滝に、また飲み込まれ、消え去った。
ごぅごぅごぅと落ちる水。その滝壺からこっちを見てる。
白い手伸ばしてこちらを誘う。おちろ、おちろ、お前だけ上がるな。堕ちろ、堕ちろ、私たちだけなぜ憐れまれる?
いつしか
滝壺そのものが目になって、僕をじぃっと見つめてた。
この世を、苦しい世の中を、登る僕を引き摺り落とす。
僕が鯉で、彼らが滝壺。僕もきっとこれからは、あの滝壺の中でここにくる人を見つめるのだろう。
ごぅごぅごぅと滝は哭く。訪れたものを飲み込むために。
あぁ、点額点額。
龍にはなれず、ここに堕ちる。
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