最近、彼女の様子がおかしい。
夕食のときも、映画を観ているときも、どこか落ち着かない。
「どうしたの?」と聞いても、「ううん、なんでもないよ」と笑う。
でも、彼女の視線はいつも、”俺の肩越し”を見ていた。
***
ある日、仕事から帰ると、彼女が台所に立っていた。
「おかえり」
「ただいま。……なあ、本当に最近どうかした?」
彼女は、少しだけ迷ったような顔をしてから、ぽつりと言った。
「……ねえ、家に、”もう一人”いない?」
背筋が冷たくなった。
「何言ってんだよ、俺たち二人暮らしだろ?」
「……うん、そうなんだけどね……」
彼女は、テーブルにあったコップを指差した。
「これ、さっきまでここになかったんだ」
「……え?」
「さっきまで、テーブルの端っこに置いてたの。なのに、今、真ん中にある」
言われてみれば、確かに妙だった。
彼女は続ける。
「私、最近ずっと気になってたんだ。……洗濯物が、干したときと少し違う位置になってたり、引き出しが半開きになってたり……」
「そりゃ、気のせいだろ?」
そう言いかけて、ふと嫌な記憶がよみがえった。
そういえば――
俺も感じたことがある。
ソファに座ったとき、クッションの向きが違う気がしたり。
玄関の靴の位置が、昨日と違ったり。
でも、どれも「気のせい」で片付けていた。
それが、積み重なっていたとしたら……?
「……いるのか?」
思わず、そう呟いた。
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