某駐屯地のポスト
投稿者:mod (1)
私の職業は自衛官で、勤務のなかで聞いた少し怖い話を投稿できればと思った次第です。(特定を避けるため、一部言及を避けている箇所があります。)
これは前の勤務地で一緒だったKさんから聞いたお話です。
Kさんは私の期別で言うと1つ上の先輩で、放胆でありながら繊細な一面を持つ魅力的な男です。でも彼は一人ではゴキブリを始末できません。自衛官なのに。
バリバリの理系かつホラー映画ですら嫌がるビビリなKさんが私に語った以上、この話の信憑性を裏付けているように思えてならないのです。
さて、Kさんはかつて某所にある駐屯地の整備部隊で勤務していました。当時Kさんはフレッシュな若手幹部で、その人柄もあって上司・部下問わず仲が良かったそうです。
ある日、Kさんは当直勤務に就くことになりました。自衛隊の当直勤務では消灯後の見回りや火気の点検だけではなく、少し離れた場所にある弾薬庫への巡察があったりします。この巡察が深夜の微妙な時間に当たってしまうと、仮眠がうまく取れず今日はハズレだなーなんて思うのですが…。その日のKさんも深夜の時間での巡察が当たってしまったそうです。
「Kさん、巡察の時間ハズレっすねー。」
当直の相方だったHさんは笑いながら言います。Hさんは若手でありながら、しっかりとした知識と技能を持った、所謂イケイケの下士官でした。
「ホントっすねー。今日は上手いこと寝ないとHさんも明日きついっすよ。」
KさんはHさんと何気ない会話を当直室でしていたそうですが、深夜の巡察を控えていることもあり、HさんはビビリなKさんを面白がってとある話をしたそうです。
「Kさん、そういえば知ってますか。弾薬庫行く途中にあるお化けポストのハナシ…。」
「ちょっと勘弁してくださいよ。私怖いのマジでダメなんですって。」
「まぁまぁ、大した話じゃないですよー。」
Hさんはニヤニヤしながら続けます。曰く―
この駐屯地の弾薬庫のある山に登っていく道の途中、既に使われなくなったポストがぽつんとある。ポストというのはすぐに思い浮かぶ郵便局の赤いアレではなく、歩哨(特定の目標や方向を警戒する人員)の警戒する立ち位置のことです。そのポストはコンクリート製の小さなもので、昼間でも覗くと、巨木の洞のように真っ暗で言いようもない不気味な雰囲気があるそうです。真夜中にそのポストの前では霊障が起こる噂が尽きないそうです。噂の内容は様々で、人間関係が原因で自殺した隊員の霊がいる、誰もいないのに急に誰何(彼我不明人員に対し呼びかける)された、悪寒と鳥肌が止まらず翌日体調不良に…、などなど。ともかくそのポストを知っている誰もが気味悪がって、ポストの前を通るときはアクセルを踏みこんで早めに通り過ぎるそうです。
「なんで巡察前にこんな話したんすか!」
「すんません、でも巡察も少しくらいドキドキして行った方が気が引き締まるでしょ?」
Kさんは不服に思いましたが、Hさんは終始ケロッとしていてそういうモノへの耐性があるんだなーと思ったそうです。そんな話をしているうちに、巡察の時間がやってきました。Hさんは運転席に、Kさんは助手席に乗り込んで巡察に向かいました。
いつも通りの巡察の道のり。他愛もない話をしながら順調に弾薬庫に向かいます。ただ小心者のKさんは先ほどの話が脳裏に浮かんで気が気ではなかったそうです。だんだんと車両が例のポストに近づいていきます。あーもう嫌だなーとKさんが思った次には、車両のスピードが明らかにゆっくりになっていきました。KさんはHさんがふざけてわざとゆっくり走ろうとしているものと思って注意します。
「ちょっと!あんまりふざけないで下さいよ!」
「いや、ははは。そんなわけないじゃないですかー。」
Kさんは笑うHさんに本気で怒気を出すべきかと思ったところ、どうもHさんの様子がおかしいのです。Kさんに気をつかってか少し笑みを浮かべるものの、その表情には明らかに焦燥がありました。
「Hさん、大丈夫ですか?!」
「いや、おかしいんです。本当に…!」
Hさんの足元を見ると、何度もアクセルを踏み込んでいるのが見えます。本来ならけたたましエンジンが唸るはずが、車両はとうとう力なく停車し、エンジンストップしてしまいます。
ぴったりと、例のポストの前で。
「Kさん、Kさん。エンジンがかかりません。エンジンが…。」
Hさんが焦っていく一方で、Kさんは内心恐怖に塗れながらも不思議と冷静に指示ができたそうです。
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