テンガロンハットさん
投稿者:我社保 (1)
テンガロンハットさんという人がいました。
町の名物的な人で、テンガロンハットを被って「ギターを持った渡り鳥」の鼻唄を吹いている人で、地域の変わり者だったテンガロンハットさんは、よく小学生にバカにされていました。
そして、これは、私とテンガロンハットさんの話です。
当時私はドラゴンクエストにハマっていました。
私は気が狂ったようにドラゴンクエストに熱中していました。
学校が終わると、友達とランドセルの底に隠して持って来ていたゲーム機を出して、東家でドラゴンクエストをします。
対戦をしていると「鼻唄」が聞こえてきました。
私たちはゲームを停止して、息を潜めて、頭を振り回してその姿を探した。
すぐに見つけました。白いバンのすぐそばでタンクトップにアディダスの半ズボンにテンガロンハット被った小肥りの中年がいます。
彼はまさしくテンガロンハットさんです。
私たちの時代はまだ学校で「テンガロンハットの男の人を見かけたらなるべく近づかないように」と教えられていました。変質者なので。
私たちは「テンガロンハットだ! テンガロンハットいるじゃん!」と興奮してその動向を追うことにしました。
私たちは何度か路上に停まっていた白いバンに隠れたりしながら、テンガロンハットさんを尾行しました。
テンガロンハットさんは何回かこちらを向くから私たちは「やばやばやば」と興奮してクスクス笑いました。
しかし、状況は一変します。
テンガロンハットさんが商店街で消えました。
私たちは「どこ行った!?」と困惑していましたが背後から「ウワアアアア」と叫び声を上げてテンガロンハットさんが追いかけてきました。
──“テンガロンハットが狂った!”
私たちは大慌てで全速力で逃げました。
駅前の人通りが多いところに来ると、私たちは安心してコンビニに入りました。テンガロンハットさんがコンビニ店員に何かを訴えていました。
「その人やばい人です!」とここぞとばかりに訴えました。
テンガロンハットさんがびしっと何かを指差しました。
コンビニ店員はすぐに通報して、そこに警官がやってきました。
私たちはそのパトカーで家まで送ってもらい、その日は「ひどい目にあったね」と両親に慰めてもらいました。
二日ほど学校を休み、あるとき、テレビを見ていると見知った男の口元が映っていました。そうです、テンガロンハットさんです。
テンガロンハットさんはテレビデビューしていました。
それは何かの事件の取材らしく、テンガロンハットさんは「追われているのがわかったから、どうにかしないとと思った」と言っていました。
私はあの時の恐怖を思い出して彼を恨みました。まるで私たちが悪者です。いやまぁ、悪者は私たちなのですが、「大人が子供に本気になるな!」と生意気にも思いました。性格の悪い子供だな、といまでは恥ずかしく思いました。
そして、私はそのニュースの、右上のサイドテロップを見ました。
〝人拐いの常習犯を逮捕!
お手柄テンガロンハットさんとは〟
意味が分かると怖い話
・ドラゴンクエストで対戦はできない
・ファミコンはランドセルの底には納められない
・テンガロンハットさんを追いかけていたのに・・・?
いや変質者に近寄る自分が悪いんでしょ。
子供だからって何でも許されると思うな