誘いの扉
投稿者:不幸図書館 (3)
『久しぶりにあの夢見たんだよね』
いつもバイト中、人がいない時間帯になると怖い話を披露してくる先輩が、別のジャンルについて話し出すのはとても珍しいことでした。
「あの夢ってなんです?」
「階段で躓く夢だよ」
廃棄商品のカヌレを幸せそうに頬張りながら先輩は夢の内容について話し出しました。
「なんかさぁたまに見ない?いきなり階段登ってて、いきなり躓いていきなりばっと目が覚めるみたいな夢」
「あー確かに見ますね」
皆さんも経験があるのではないでしょうか?気づいたら謎の階段を登っていて――――かと思ったらいきなり踏み外して、そのまま夢から覚めたこと。自分も数度見た記憶があります。
「あの夢すごいビクッてなるし、この夢で起きた時大体予定より早起きになっちゃうから嫌いなんだよねぇ」
「わかります、たいてい5時とかに目が覚めて二度寝しちゃいます」
「だよね!私も昨日この夢のせいで8時に目が覚めちゃったよー」
それは早起きではないと思う。
「そういえば俺この夢見た時毎回思うことがあるんですよね」
「ん?なになに?」
「それは――――」
ピロリロンピロリロン
「いらっしゃいませー」
お客様の突然の来店に驚き、カヌレを詰まらせ咳き込む先輩を尻目に、私は業務に取り掛かり、この話はここで終わりました。
***
「自分、結構な頻度でその夢見るんっすよね」
先輩と話した次の日、私は1個下の後輩と夜シフトをこなしていました。
「へぇ、でもそれって結構キツくないか?あの夢のせいで強制的に起こされること多いだろうし、ゆっくり寝れないだろう」
「もう慣れたっすね。それに朝練早いんで、目覚ましがわりになってむしろありがたいっす」
やはり体育会系は考え方が違うなと、感心しながら後輩の話を聞いていました。
「ああ、夢といえば最近自分、明晰夢見れるようになったんすよね」
「明晰夢って確か自分は今夢の中にいるって認識できる夢だっけ?」
「そうっす、明晰夢を見れるようになれば、自分の見たい夢も見れるようになるんっすよ」
「へぇ、見れるようになったって――――訓練すれば見れるもんなのか?」
「はい、寝る前に見たい夢を具体的にイメージしたり、起きた後見た夢を記録したりすれば明晰夢を見れるようになりますよ」
「なるほど、確かに楽しそうではあるな」
訓練してまで見たいとは思わないけど。
「そうだ!階段の夢も見ようと思えば見れるかもしれないっすね!」
「まぁ見れるのかもな。でもそんなに面白いもんじゃないだろ」
「何言ってるんすか。毎日この夢見れれば目覚まし入らずで朝スッキリですよ!」
「ポジティブだな……」
「それだけが取り柄っすから、じゃあ早速今日からやってみるっす」
そう元気よく言った後輩のことを、この時の私は特に止めようとは思いませんでした。
文字通り
いい旅・夢気分ですね!
そんな夢見たこことないなあ…