奇々怪々 お知らせ

不思議体験

不幸図書館さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

誘いの扉
短編 2024/06/05 20:51 2,178view

しかし、その日から、後輩の様子が徐々におかしくなっていきました。バイトにはよく遅刻するようになり、業務のミスも多くなってしまったのです。毎日綺麗に整えられていた髪はいつもボサボサで、目元にはドス黒く大きなクマができ、今までの活気は、どこか狂気に囚われたものになってしまっていました。
「おいお前大丈夫かよ……」
「え、何がっすか?」
「いやほら、最近なんか辛そうじゃん?悩みがあるなら……」
「何言ってるんすか!むしろ絶好調っすよ!さっきも仕事が早いって店長に褒められましたし!」
「いやお前、さっきのは怒られて――――」
「そんなことより先輩!自分そろそろ着きそうなんっすよ!」

飛び出してしまいそうなほどに開かれた目玉をぎょろっとをこちらに向け、後輩は唐突にそう言いました。
「着きそうって……どこに?」
「階段の終着点っすよ!あれから意識的に階段の夢を見るようにしてたら、躓かないようになったんすよ!それで毎日寝て夢を見るたびに少しずつ階段を登っていって――――昨日ついに終着点が見えたんっすよ!」
夢に見る階段の終着点――――それは私が階段で躓く夢を見るたびに考えていたことでした。
「それで……どんな感じなんだ?」
「光に包まれてて正確にはわからないっすけど多分『扉』っす」
「『扉』……」

聞く限りとても神秘的なそれを、後輩は夢の中で眼前に捉えてるらしい。開くと……どうなってしまうのだろう。
「今日の夢でたどり着くと思うんっすよね……ふへへへへへ、楽しみだなぁ……」

結局この時の私は、何か得体の知れないものに取り憑かれたような後輩が怖くて、彼を止めることはできませんでした。

次の日、後輩はバイトに来ませんでした。
正直昨日のこともあって嫌でしたが、単純に1人では仕事が回せないのと、彼を止めなかった罪悪感が勝り、電話をかけました。が、彼が電話に出ることはなく、その1週間後、学校の友達により、家のベッドの上で○んでいるのが発見されたのです。
直接見たわけではないので、はっきりとした状況は知りませんが、皮膚が張り裂けそうなほどの狂気的な笑顔で、天井――――まるでそのはるか先の、どこかこの世界ではない場所を見つめているかのような様子だったそうです。
彼は最期、おそらく辿り着いたのであろう『扉』の向こう側を見てなぜ笑っていたのでしょうか?現実に帰りたくなくなるような、ファンタジー世界が広がっていたのでしょうか?それとも、絶望の笑みが溢れるほどの、狂気の地獄が、そこにはあったのでしょうか?
誰もが一度は見たことのあるであろう階段で躓く夢。その階段を登り切った果てには――――一体どんな景色が広がっているのでしょうね?

2/2
コメント(2)
  • 文字通り
    いい旅・夢気分ですね!

    2024/06/07/13:08
  • そんな夢見たこことないなあ…

    2024/06/22/07:53

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