小学校3年の時、弟を亡くした。
まだ1年生だったのに、海水浴の時に溺れて死んでしまった。
俺も弟も、野球をやってた。
お兄ちゃんよりうまくなって甲子園いく!とか言ってた。
おいおい、俺は3年生なのにレギュラーだぞ!とか言い返して、父と母が笑う。
傍から見ても、俺らにとっても幸せな家庭だったと思う。
亡くなってしばらくは、野球もできないくらいにショックだった。
学校も休みがちになって、野球の練習もしてなかった。
3か月くらい経ったかな。夏休み真っ只中のお盆の時期。
父親が、「河川敷に〇〇(弟)がいたぞ」という。
走って河川敷に行くと、確かに弟がいた。
よくここで壁当てしてたんだ。
1球1球大事に投げるんだぞ、体の正面で球を受けろ。
俺の口癖を忠実に守って、大事に大事に投げていた。
涙をこらえ、白球を一つ、河川敷に供えた。
時は流れ…
高校。
甲子園には行けなかったけど、県大会で準優勝したよ。
大学。
プロにはなれなかったけど、レギュラーで活躍できたよ。
社会人。
野球はやめてしまったけど、子供が生まれたよ。
お前から1文字、名前をもらったよ。
孫もできた。俺ももういよいよだなあ。
あれから60年近く経っても、お盆にまだ壁当てやってる。
いい加減次の練習しろよ、と思うが、一人でできる練習ってあんまりないもんな。
もう俺も体は自由にゃ動かせない。
「もう俺なんかより、100倍上手だよ」
そういうと、スゥーっと、光に包まれ消えてった。
変化球きた…