女性タクシー運転手 片桐舞子の受難
投稿者:とくのしん (65)
片桐舞子はタクシー運転手である。30歳半ばで離婚を経験した彼女は、生まれ故郷に戻りタクシー運転手として人生の再スタートを切った。元々販売員だった彼女は、接客業での経験を活かしつつ、大好きな運転を仕事にすべく第二種免許を取得しタクシー運転手になった。そんな彼女もキャリア15年程のベテランの域に差し掛かるが、そのキャリアの中での恐怖体験を紹介したい。
その日、朝からしとしとと降り続く雨は夜になっても雨足は変わらない。温泉街に面した観光地だけあって、梅雨の時期らしい雨のおかげもあり、駅からタクシーを利用する客は平日の割に多かった。時刻は20時、そろそろ会社に戻ろうかと思ったところで乗客を一人乗せることになった。
「ほんまおおきに。すんまへんな」
身体に似合わない小さなハンカチを傘代わりに乗り込んできた男は、後部座席に腰をかけながらそう言葉をかけてくる。片桐が助手席からタオルを手渡そうとすると、丁重に断った。
「お気遣いすんまへん、大して濡れてまへんから。それよりここから〇〇の滝はどのくらいかかりますやろ?」
目的地まで1時間弱と伝えると、男はそこに向かうように片桐に伝えた。
「いやぁよく降る雨でんな」
中年男は乗車してからよく喋った。聞けば関西から観光で来たという。恰幅の良い風貌から、どこか会社のお偉いさんを彷彿とさせた。観光目的という割にはスーツをビシッと着こなしていたことに少し違和感を感じたものの、会社の慰安旅行の可能性もあるかと片桐は得心した。
それでも気になったのは、こんな時間に“〇〇の滝”へ向かう目的だ。そこは観光名所であるが、自殺の名所としても有名である。まさかこの男は自殺目的で滝へ向かうのでは?と片桐は勘ぐっていた。
「お客さん、関西の方ですか?宿泊する旅館はもうお決まりですか?」
片桐はさりげなく探りを入れた。すると男性は
「宿泊先はもう決まってんねん。野暮用で昼間〇〇の滝に行けなくてな、夜でもいいから一度見ておこうと思って。ほな、こんな時間にすんまへんな」
「いいえ、仕事ですから気になさらずに」
片桐はそう受け答えをしながら車を走らせた。
1時間ほど車を走らせ、目的地の“〇〇の滝”へと着いた。表示された料金は9,000円強。
男は1万円札を片桐に渡すと
「お釣りはいりまへん。ゆうても大したチップにはなりまへんがな(笑)」
と笑いながら車を降りた。
「あの、お客さん。帰りはどうしますか?もしよかったらお待ちしますけど」
片桐は傘もささず滝へと向かう男にそう声を掛けた。男は振り返ると
「おおきに。帰りは心配いらんねん。ほな、また」
そう答えると、滝の音がする闇夜に姿を消した。
その数日後、会社で休憩を取りながら地元新聞を見ていると
“〇〇の滝で男性が自殺か”という記事の見出しがを見つけた。記事には
〇日の早朝、近隣住人が〇〇の滝にて倒れている男性を発見、警察へ通報した。駆け付けた警察によると、滝壺付近で50代前後の男性が倒れているのを捜索中の署員が発見。その後、男性の死亡を確認した。現場には争った形跡がないことから自殺とみられる。高さ30mの展望台のフェンスを乗り越えて飛び降りたと見ている。
男性の所持品から大阪在住の萬田三郎さん(54)と断定した。
記事の最後には顔写真が掲載されていたが、それはまさしく数日前に片桐のタクシーに乗車した男であった。
あか
もうこの世にいない人とわかってて3回も乗せる片桐舞子さん、怖すぎる。拒否れよ。
一万円札は本物だったのかな?
とふと気になりました。