住み込みの仕事
投稿者:海堂 いなほ (14)
お金のない私は、住み込みの仕事を始めた。
知り合いに勧められて始めた仕事だが、住み込みの部屋は、畳の6畳一間、風呂、トイレ共同、昭和40年築の鉄筋コンクリート製の2階建てでぼろい。それに害虫がひどい、○○ほいほいはすでに満室状態だった。それに、仕事先も山の中、見渡す限り緑一色、言葉を変えれば風光明媚だが、元に戻せば、単なる弩田舎である。
私の仕事は、学生寮の警備員、こんな山の中に不審者なんてと思いながら、夜間2時間おきに館内の見回りと学生寮の横に建てられた功績館の外観チェックをしている。
功績館には、戦争関連の遺書や旭日旗が展示してあり、ある種、独特の雰囲気を醸し出している。
私たち警備員は、学生に会うことはなく、学生が寝静まった後にしか学生寮の見回りをしないのだ。
そんな警備の仕事に慣れてきた頃、同僚から「あの学生寮と功績館は出るらしい。」という噂を聞いた。霊感などゼロな私には関係のない話だと思いながら、聞き流していたが、いざ、夜中の見回りに立つとその噂を思い出す。暗闇に懐中電灯の光だけが浮かんでいる。懐中電灯の明かりは不思議なもので、照らしている部分は明るいが、その周りはより暗く感じる。
その日、私はいつものように午前2時の見回りのため、学生寮に入っていった。2階に上がったところで、誰もいない廊下から足音が聞こえた。気のせいだと思いつつ、それでも見回らなければならないので、足音のするほうへ進む。「こんな時間に学生か?」とも思い、足音のするほうに懐中電灯を向けた。そこには血に染まった中年の男性が功績館に向かって歩いていた。男性は、光に気が付くと、こちらを向いて笑ったような気がした。
恐怖のあまり、懐中電灯を落とし、私はその場から逃げ出した。そのあとの記憶は定かではない。警備員の待機所に戻ると朝までそこにいた。
後で調べて分かったことだが、この建物から少し離れた場所で10年ほど前に一家惨殺があったそうだ。私も近くに住んでいたので、その事件は知っていた。なんでも留学生が雇っていた一家を惨殺したらしい。それに功績館は、ある種の霊の通り道になっているらしく惨殺現場と功績館を一直線で引くとその真上に噂の場所があった。あの時見た中年の男性が殺された人なのかはわからない。
それでも私は、この仕事を辞めるつもりはない。なぜなら、お金がないからだ。
お金がないのは辛い。