あの時そこにいた

20年ちょっと前の話。
地元では、不登校や事情で高校に行けなかった人のための高校がNPOによって設立される、というのが話題だった。
設立する理由や意義を語り、設立のための寄付を募るNPOメンバーがメディアに取り上げられ、入学したいと言う人たちの話も取り混ぜて、盛り上がっていた。
今なら当たり前の事だけど、当時としては教育の最先端みたいなところがあったから、地元テレビを見れば必ず取り上げ、定期的に新聞にも載ってた。
ただ、騒ぎ立てる割には寄付は集まっていないようで、校舎着工開始まで何ヶ月、と迫ったところで億の金額が足りてなかった。
毎週末、学校に行きたくても行けなかった人やNPO、支援者が募金を募る姿が駅前にあり、週明けニュースでそれが流れ不足額も公表される。
当時は天気予報並みのレギュラーコーナーだった。

因みに今はどうか知らないが、その学校に関しては、土地は支援者からの提供、学校法人として国や県から補助、県私学連盟からの補助があった上で「自己資本金」として億の金額が必要なのだが、それのほとんどを寄付募金でどうにかする感じだった。

そんなある日、3連休だったと思うが、NPOは不登校で辛い経験をした子供達を連れて、別の地方へ募金遠征に出かけた。

学校自体が当時にしては珍しく画期的なものだったので、全国から生徒が来る、来て欲しいと言うことで、募金遠征はよくやっていた。行く前か行った後に、メディアでそれを宣伝・報告するのもいつものことだった。

その3連休、正確には金曜夕方から火曜の朝にかけての間に、募金に出かけた地方で銀行強盗があった。地銀に現金を運んだ輸送車が襲われ、現金が奪われたのだ。
奪われた金額は新学校設立に必要な残金とほぼ同額。
そしてその週末、前週には億の不足があったのに、新学校設立資金が満額以上集まった、と報告があった。
数年前からの寄付募金で集まっていたのは数千万。それがたった1週間で億集まったらしい。

しばらくして仕事で関わっていた母校と私学連盟から、その学校に予定していた私学連盟からの補助が不認可になった、と報告があった。その学校は県私学連盟に登録も許可されなかった。
理由は補助がいらないからではなく、私学連盟の理念にそぐわない、規則に反する部分があったから、と学園長（当時の私学連盟会長）が後から教えてくれた。

その学校は今も普通に運営され、全国から不登校や進学できなかった人たちを受け入れている。

この銀行強盗事件は未解決のまま、時効になっている。