横断歩道の手
投稿者:ぴ (414)
その頃、進路のことでずっと行き詰っていました。
私には夢があり、そのためには大学に通う必要がありました。
しかし、うちは裕福な家ではなくて、どちらかというと迷惑をかけないように働く選択をしたほうがいいのではないかと追い詰められていたのです。
その頃にたまに私は変なものを見ていました。
それは横断歩道に顔半分だけ出して移動する女の人でした。
夜間だけではなく、白昼堂々とそれを見ることがあって、ものすごく怖かったです。
憑かれているかもしれないと何度もお払いに行きました。
それでも効果はなく頻繁に見てしまい、私はそれを見るたびに小さな怪我をすることが多くて、何か悪いことが起こる前兆かもしれないと思っていました。
その予感が当たったのは、夕方学校帰りに寄った本屋さんから出てきたときのことでした。
本屋のすぐ前に横断歩道があり、私はそこを何の気はなく渡ったのです。
そして普通に歩いていたのですが、急に何かに足首をぎゅっと握られる感触がして、つんのめりそうになりました。
慌てて体制を整えて足元を見たら、真っ白い手が私の足首をつかんでいたのです。
真っ白い手は横断歩道からにょきっと出ていました。
そして私が進もうとしても手が足首を離してくれません。
信号機が点滅をし始めて、私はまずいと思いました。
そこはまだ道路の上なのに、私は地面から生えた手に足首をつかまれたせいで、その場から動けないのです。
必死になってその手から逃れようと足を振りたくったけど、それでもその手は足首から離れてくれませんでした。
そこで周りから「危ない」と言われて、私は顔を上げました。
歩道側の信号はもう赤になっており、前方不注意でスピードを落とさずにこっちに突っ込んでくる車が見えました。
死ぬって本気で思った瞬間でした。
私は気づいたら道路脇に倒れこんでいました。
やばいと思った瞬間、誰かが私の背中を押した感覚がありました。
そしてその衝撃で、足首の手が取れて私は命を救われました。
横断歩道のほうを見たら、あの顔半分の女が悔しそうな顔でこっちを見ているのが見えました。
私はこうして九死に一生のような体験をしたのです。
私を突き飛ばしてくれたのが誰なのかまでは分かりません。
実際にはそこには誰もいなかったらしいですから。
このことがあって人生は一度きりだと思え、思い切って両親に進路のことを相談しました。
そしたらいろいろと調べてくれて、奨学金を借りられることになり、やりたいことのために大学に行けることになったのです。
すごく怖い体験をしたけどあの体験があって人生観が変わったおかげで、今があると思っています。
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