建設現場の幽霊

　数年前にある建設会社で派遣の事務をしていた時の話です。以前から、社員さんからうちの会社には幽霊が出ると聞かされていましたが、私はあまりその手の話は信じないたちだったので話半分に相づちを打ってやり過ごしていました。

　そこでの勤務が半年を超えたある日、他に手の空いている人がおらず、残業になってしまうものの私が建設現場に書類を届けに向かうことになりました。問題なく書類を受け渡し会社に戻ったころには19時近くになっており、冬だったためあたりはすっかり暗くなっていました。

たまたま社員さんもほかの対応で出払っており、小さなビルの4階のオフィスに私一人がいるという状況で、私は早く支度をして退社しようと考えていました。

その時、窓ガラスから、コツコツコツと何かで叩いたような音がしました。すぐにそちらの方向を見るも、向かいの建物の屋根が映っているだけで、私は気のせいだと思い帰り支度を続けました。

すると、またコツコツコツ、と窓をたたく音がしました。気になって窓のそばまで行き窓を閉めたまま下を軽くのぞいてみるも、何もありません。ベランダや手すりもなく真下のビルの入り口が見えるだけです。

首をかしげながら席に戻ろうと振り返ったその時、私の席の後ろで人影のようなものがしゃがみこんだように見えました。えっ、と驚きながらもおそるおそる席に近づき、机の下をのぞき込みましたが、誰もいませんでした。ただ、机の下に小さな砂利のようなものが数粒落ちていました。今日建設現場に行ったからどこかに付いていたのかも、でもそんな道は通っていない気がすると思うと、だんだんと怖くなってきて、私は慌てて会社を後にしました。

　翌日昨日の出来事を社員さんに話すと、そういったことはうちではよくあるんだと返答されました。どうやら昔、このビルを建設していた際に作業員の方が亡くなっていたようです。建設中に急に発作で倒れ、不幸にもひとりで窓の点検をしていたため発見が遅れてしまったようです。きっと誰かに気が付いてほしかったのかもしれません。