炎天下の下で
投稿者:とくのしん (65)
郊外のショッピングモールに夫と2人で行ったときの話です。
真夏の暑い日で、天気予報では今年一番の猛暑日という予報通り、気温は35度を優に超えていました。猛暑というより酷暑だよな、と駐車場で空きを探す夫が愚痴るように呟きました。考えることは一緒なのでしょう、涼しいショッピングモールで休日を過ごすという発想は誰しも同じなようで、3連休の初日ということもあって大変に混雑しておりました。
「あ、あそこ空いてる」
広い駐車場の隅の方でしたが、私は駐車スペースを見つけました。店舗からは随分と距離がありましたが仕方ありません。車を停めて強い日差しの中、歩いていると
「助けてください!」
突然大きな悲鳴のような声がして振り返ると、そこに20歳半ばくらいでしょうか、女性が慌てた様子で近寄ってきました。
「どうしました?」
少し派手目な女性に私は問いかけました。
「子供が!子供が車のカギかけちゃって開かないんです!」
「ええ?」
「内側からロックかけちゃって!とにかく助けてくれませんか!?」
「あの、警察とか電話しました?」
「それが・・・携帯家に忘れてきちゃって!」
夫と放っておけないと、その女性の後に続いて車に向かいました。
「この車です!」
女性が指さした車は少し型の古い軽自動車。Nボックスやタントのような車種で、黒い車のうえ全面スモークをかけていることもあり、私には少し怖い印象を受けました。スモークを貼っているため中の様子は伺い知ることはできませんが、近づくと中から子供の声が聞こえてきます。夫がドアノブに手をかけますが、どのドアもロックがかかっています。
「うわあああああん!お母さん!」
男の子の大きな泣き声が車内から響いています。スモークの向こうにうっすらと子供が窓ガラスに張り付いているのが見え隠れしていました。
「ユウタ!ユウタ!落ち着いて!ママ近くにいるよ!」
「うええええええええん!」
「カギわかる?ガチャガチャやってごらん?ユウタ!」
母親の必死の指示に子供は泣き喚くだけ。この気温です、早く助けなければ子供が死んでしまいます。事態は急を要するため、私は咄嗟に警察に電話していました。
「もしもし!子供の閉じ込めなんですが!」
110番で事情を説明していると騒ぎを聞きつけた方がやってきました。
「どうしたんですか?」
声をかけてきたのは60代前後のご夫婦でした。
「子供が閉じ込めにあってしまって」
「そりゃいかん!警察を待っている時間はない!窓ガラスを割って助けましょう」
初老の男性はそう提案しました。男性は母親に断るでもなく子供の声のする後部座席を何度も強く叩きます。叩く音が怖いのか驚いたのか、子供の泣き声が一層大きくなっていきます。
「もう少しよ。もう少しだから待っててね」
必死に窓を割ろうとするご主人の横で、ご婦人が必至に子供を宥めます。母親もおろおろと狼狽えながら心配そうにその光景を眺めておりました。
不思議な話ですね。
子供の泣き叫ぶ声をみんな聞いていたのに。
どピーカンの真っ昼間でしょ???
投稿者です。
『炎天下の下』というタイトル、よくよくみれば重言になっておりますが、ジリジリと焼けつくような暑さが伝われば・・・という意味合いが皆さまに伝われば幸いです。
昼間でも夜中でも出るんですね。