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心霊

INJさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

真昼間の病院
長編 2022/09/24 11:09 1,201view

今から10年以上前、製薬会社の営業(MR)をしていた時のお話です。

私は心霊系はどちらかと言うと好きな方で、スティーブン・キングやスプラッター・パンクと言われる小説を愛読しておりました。心霊系はあくまでもフィクションであり、実在しないものと考えて楽しんでおります。

ただ、あれはその考えを変えるというか、実在するのかもと考えるきっかけになった出来事でした。

ある大学病院を新たに担当する事となり、前任者と引継ぎのあいさつを行っていました。その大学病院は数年前に新設された新しい病院で、廊下も広くとても照明も明るい病院でした。

病院、特に大学病院は患者情報などの重要な個人情報が多く集まる場所ですので、MRのような業者には厳しい入館制限が設けられております。訪問時間、訪問場所、入館手続きなど多くの制約が用意されています。訪問規制と呼んでいます。その一つである入館手続きについて、その大学病院では薬剤部内にある記帳用紙に会社名、氏名、入館時間などを保管する仕組みとなっておりました。その大学病院の記帳場所はその建物の地下にありました。

この病院は特に訪問規制が厳しく、事前アポイントを取得した上で訪問許可を取得するシステムとなっておりました。そのため、前任者はその記帳場所をうろ覚えだと訪問前から言っておりました。

その病院は大学病院のなのでとても敷地面積が広く、事前に伝えられていたように少し道に迷ってしまいました。地下ですが新設病院なのでとても明るく閉塞感は全くないのですが、むしろ広すぎてとても空虚に感じたことを覚えています。地下と1階をつなぐ階段の辺りには看護師や薬剤師が忙しそうに歩いており、人気も多かったのですが、地下を歩いていくうちに人はまばらになり、自分たちの足音が気になる程度の静かさとなっていました。

前任者は私と異なり心霊系に弱く、「地下って霊安室なんかがあるんですよね」と言い出し、ビビり始めてきました。私は面白くなってきて、「大学病院だから霊安室には必ず亡くなられた方の遺体が安置されているよね」「今も当然安置されているだろうね」と言い、彼をさらにビビらせて楽しんでいました。

しばらく進んでいくと、彼の不安とは裏腹に霊安室の前に迷いついてしまいました。彼は当然、「すぐに離れましょう。一度、1階に上がって守衛さんに道を聞いてみましょう」と言い、急ぎ足で戻っていきました。私も彼について行きましたが、その時にフーっと風が吹いてくるのを感じていました。その時は「あ、ドアでも空いたかな」と感じ、彼には何もいわずにそのままついて元来た道を戻って行きました。

1階への階段の傍につくと何人かの人影が見えるようになってきました。MRは習性として、周囲の状況には非常に敏感です。病院内は生死に関わる業務を行っている方々がたくさんいます。私たち業者は医療のパートナーとは言われていますが、所詮は営業です。病院から呼ばれて来ている訳ではなく、あくまで自社製品の販売を主な目的として病院に来ています。このような立ち位置のMRが急いでいる医療関係者の道をふさぐことはもってのほかなので、前後左右の気配は常に意識して、後ろから歩いてくる人がいると先に行っていただくように道を譲る習性を持っています。

霊安室から少し離れてから、私は後ろに気配を感じていました。ちらっとみると人影がありました。しっかりと確認した訳ではありませんが、私には人がいるのが感じられました。私は習性にならって先に行ってもらうべきと考えていましたが、前任者は気付いていないようでした。霊安室にいってしまった恐怖から急いでいたからかも知れません。私も速足で歩いているのでご迷惑にはならないだろうと考え、道を譲らず彼について速足で歩いて行きました。

1階の階段を登る辺りになるとかなり周りに人が増えてきました。さすがに前任者も歩調を弱め、周りの医療関係者に気を使いながら歩くようになっていました。私も先程から後ろを歩いている方を再度気にするようになっていました。まだ視界に入る(邪魔をする可能性のある)距離にその方がいる事を確認していました。

その後、前任者が後ろから歩いてきた医療関係者に道を譲るため壁際へと近づき、一度止まりました。この医療関係者を確認した時に、その前から後ろから歩いてきていた方の気配が消えました。私は別の方向に曲がったのだろうと考え、気にしていませんでした。

医療関係者に道を譲った後、前任者が「最近の若いMRは周りに気付くのが遅く、迷惑を掛けているケースがあるんですよね、これは教科書にはない必要な能力ですよね。」などと、言い始めました。確かに前後左右の気配を察知する習性はMRに必要なスキルで、前任者も中堅社員だったので、その辺りは身についていると考えていました。

そこで、「霊安室から少し歩いてきた時にも後ろに人がいたよね」と言うと、先程のビビらせもあったため、「もう、そういうのは勘弁してくださいよ」と言い出しました。どうやら、彼はその気配を感じていなかったようです。「いや、さっきまでずっと後ろにいたよね、この辺で曲がったみたいでもういないけどね」と言うと、彼がこちらをみて、「曲がるところなんてないですよ。そこの角は行き止まりですよ」と言い出し始めました。そこで「霊安室あたりでドア空いたよね。風吹いたでしょ」と言うと、「えっ、風なんて感じませんでしたよ。もう本当に勘弁してくださいよ」と、半ば怒り出しながら反論してきました。

私の気のせいだったのでしょうか。私も長くMRをしていましたので周りの気配にはとても敏感です。その私が確かに後ろから人が歩いてきていたと感じています。前任者も私がMRの習性を身に着けている事を知っているので、気のせいだとは言いません。私がまたからかっているのだと思っていたようです。

無事に守衛さんに聞き、薬剤部にたどり着けました。地下におりてすぐ逆方向にある通路がたまたま資材などで見にくくなっていたため、道に迷ったとわかりました。前任者はその後何回か引継でその病院に行きましたが、もちろん絶対に迷う事はなく、霊安室方面には一歩も近づきませんでした。

その後、気配が消えた辺りに一人で確認に行ってみましたが、彼の言う通りそこは行き止まりでした。

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コメント(1)
  • 怖い。。

    2022/09/24/12:05

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