マッチングアプリの女
投稿者:ねこじろう (147)
俺は今年で30になる独身の男だ。
これまで、お見合いパーティーだの、街コン、合コンだのに参加しては来ていたのだが、なかなか女性と知り合いになることは出来なかった。
それならということで成約率業界随一というキャッチフレーズのマッチングアプリに登録してみると、なんと登録後わずか3日で23歳の女性とマッチングした。
加那というその女性は、住んでるところは同じF市の中心辺りで、しかも卒業した高校も同じだった。
しばらくメールのやり取りをした後、写真交換をし合うことになった。
送られてきた写真は、どこか広い草原みたいなところで撮ったスナップ写真で、ノースリーブの白のワンピースにつばの広い麦わら帽子をかぶる、スラリとした背格好の女性が映っているんだけど、遠くから撮られているみたいで顔とか細かいところがはっきり見えない。
あと違う場所でもう1つ撮った写真があったのだが、それも被写体がぶれていて肝心の顔が分からなかった。
若干の不安はあったが、せっかくのチャンスだから日曜の昼間から会うことにした。
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場所は市内にある小さな稲荷神社
彼女の指定だった。
約束の時間の10分前に到着した俺は境内にあるベンチに座りボンヤリと、足元の辺りを忙しなく彷徨く数羽の鳩を見ていた。
暦の上ではもう秋なのだが、日射しはまだ強くて相変わらずジワワジワワという蝉の声が聞こえてくる。
すると突然鳩たちが一斉に飛び立った。
ふと顔を上げると、2メートルほど前方にいつの間にか女が立っている。
白いノースリーブのワンピースに、つばの広い麦わら帽子の姿は以前送られた写真の女性そのものだった。
帽子をかなり目深にかぶっているため、顔は見えない。
「加那さんですか?」
言いながら立ち上がると、彼女は微かに頷いた。
せっかくだからお参りでもしましょうか?ということで、俺たちは本殿に向かって歩き始める。
並んでみて分かったのだが、彼女は相当背が高かった。170センチの俺よりも軽く10センチは高い。
ヒールの高い靴を履いているとしても、かなり高いと思う。
そして無口だった。
というか本殿に着いてお参りをするまで一度も口を開くことはなかった。
それは、神社を出て一緒に入った近くの喫茶店でも同じだった。
奥まったところのテーブルに向かい合わせで座ったのだが、喋るのは俺だけで、彼女は時折静かに頷くだけだ。
しかも店に入ってからも麦わら帽子をかぶったままだから、見えるのはドギツイ赤のルージュをひいた唇と、その下から覗くややしゃくれた顎、そして異様に細く長い首だけだ。
それとこれは向かい合ってから気づいたんだけど、彼女からだろうか、何というか腐った生ゴミのような嫌な臭いが時折鼻を掠める。
とうとう我慢出来ずに俺はこう言った。
「あの、俺と話すの、つまんないですか?」
怪異もマッチングアプリをやる時代になったのかぁ