噂の顔面樹
投稿者:ぴ (414)
私の働く会社には、密かにいわく付きとささやかれる大木が植えてあります。
会社の庭の目立つ場所に植えてある何の木かも定かではない大きな樹木なのですが、その木にはある噂がありました。
この会社を始めたときに、創業したのは二人の創業者でした。
しかし、二人の内一人は何の因果か会社を設立したその日に、心臓の病で亡くなってしまいました。
もう一人の創業者はその人の死を悼んで、会社の中心である広い庭に一本の植木をしたのです。
いつでもそこから会社を見渡せるように、その人が安らかに眠れるようにと思いを込めて植えた植木でした。
それはすくすくと育っていき、会社が軌道に乗る頃には大きく育っていました。
最初は会社のシンボルとして喜ばれていた樹木でしたが、その頃になって急に木の目立つ場所にぼこっと顔のようなものが浮かんできたといいます。
その顔は亡くなった創業者の顔にそっくりで、まるで今にも叫びだしそうな苦しそうに歪んだ顔でした。
こうして大木は密やかに会社の社員から「顔面樹」と呼ばれるようになったのです。
この話がどこまで本当なのか真偽は定かではありませんが、顔面樹に苦悶を浮かべた苦しそうな顔が浮かんでいるのは本当です。
実際にこの目で見て、その表情に恐怖を感じました。
新入社員として入社した数日後に先輩社員から顔面樹のことを教えてもらったときは、かなりドン引きして見たものです。
本当にまさに苦しみに見悶えているような顔で、恐ろしくて長くは見ていられなかったです。
何かずっと見ていると呪われそうなおどろおどろしさがありました。
そしてこういう噂はお客さんの耳にも自然に入ってしまうようで、なんだか気味が悪いと何人もの人に不評でした。
あまりにその樹木が不気味だと噂になって、会社でこの顔面樹について、とある討論が行われたのです。
討論内容はこの木をこのまま植えたままにするか、もしくは切り倒して無くしてしまうかというものでした。
正直に言えば、私はこの木を切り倒して欲しかったです。
どう考えても安らかに眠っているとは思えないし、見ていてとても不安になるような顔が苦手だったからです。
だけど、自分の本心は言えなかったです。
だって創業者の顔が浮かんでいるのです。
何か呪われでもしたら怖いし、私はそのままでいいのほうに手を挙げました。
意見は完全に真っ二つに分かれ、決定を下すのは事務的な役割を担っている事務長という話になりました。
当時の事務長は本当に腹立たしい自己中心的な人で、最終判断がその人と聞いて、私はほっとしたのです。
大嫌いな人だったから、もしこのせいで顔面樹に呪われても別にいいと思えたし、おそらく99%あの木はなくなるだろうと思いました。
事務長は必要のないものは必要がないと容赦なく切ることができる人間だったし、お昼のときにあの木を不気味だと人一倍貶しているところを見たことがあります。
だから事務長が判断するならば、あの木は切り倒されるだろうとほぼ確信していました。
そして案の定、すぐに顔面樹の処分が決まったのです。
木を切り倒すための業者を雇い、事務長主導でどんどん顔面樹の処分は進んでいきました。
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