メンテナンス中の部屋
投稿者:ちさと (1)
昔、同級生のお兄さんに聞いた話。
当時大学生のお兄さんはバイク旅行が趣味だった。
その時も同じバイク仲間の先輩と一緒にツーリングを楽しみながら旅をしていて、温泉が有名な観光地に泊まることになった。
2人とも予定に縛られない気ままな旅が好きで当然宿の予約はしていなかったけれど、まぁどうにかなるだろうと楽観視していた。
ところが、連休中の観光地では予算に合った宿がなかなか見つからない。
観光案内所で紹介された駅近辺のホテルや旅館は軒並み埋まっていて、最後に少し離れた場所にあるホテルを教えてもらい直接向かうことにした。
そのホテルは、田舎の観光地によくある年季の入った古めかしい佇まいだった。
フロントのロビーは赤絨毯で煌びやかなシャンデリアがあり、表玄関には「歓迎 ◯◯御一行様」なんて毛筆の手書き看板がある。
宴会場や大浴場の温泉もあり、いかにも昭和の2時間サスペンスドラマに出てきそうな風貌だ。
フロントでは案の定「あいにく本日は全部屋埋まっておりまして…」と断られそうになったが、後がない2人は「どこでも良い、なんならスタッフ用の部屋でも」と粘るに粘った。
根負けしたフロントの人は、確認して参ります、と一度下がった。
こりゃだめかなぁ、最悪野宿かも、なんて話をしていると、先程とは違う責任者らしき人が戻ってきた。
メンテナンス中で出していない部屋が一部屋あるがそれでも良いかとのこと。
掃除も不十分なのでお代も半額で結構です、と言われ速攻でOKした。
ホテルの古さから部屋は期待していなかったが、入ってみれば割と綺麗な和洋室だった。
よく見るレイアウトで、ツインのベッドがあるスペースと窓側の広縁は障子で仕切られている。
壁紙や障子は新しいし、広さも十分だ。
掃除云々と言う割には清潔に手入れされているようだった。
お兄さんは得したなぁと喜んでいたが、先輩が「なんか怪しくね?」と言い出した。
こんなに良い部屋を出し惜しみした上に宿泊代半額とかありえない、と。
「なんかあるんだよ。ちょっと探すぞ。」
と言って絵画の額の裏や棚の中などを確認し始めた。
「知り合いにそういうの詳しい奴がいてさ、ホテルや旅館の曰く付きの部屋には大抵お札を隠して貼ってあるって。特に絵の裏なんかは怪しいんだと。」
2人とも悪ノリしながら割と本気で探したが、お札は見つからなかった。
拍子抜けしながらも風呂に入り、翌日に備えてすぐに寝ることにした。
ほどなく2人は眠りに落ちたが、しばらくしてお兄さんの目が覚めた。
ボソボソという話し声が聞こえるのだ。
はじめは先輩が誰かと電話でもしているのかと思って気にせず寝ようとしたそうだが、何かおかしい。
先輩は入り口側のベッドを使用しているはずなのに、話し声は窓の方から聞こえるのだ。
何より、会話の内容はわからないが声の主は「2人」いる。
男か女かもわからないが、間違いなく2人分の話し声だった。
無理やり宿泊を頼んで最後はクレームとかそっちの方が怖い
↑と同感
随分と厚かましい客だな