枝女
投稿者:A (4)
あれは友人と三人で深夜のドライブをしていた時の事だ。
俺を仮にAとして、友人のBとCとは大学の同じゼミで出会いすぐに打ち解けて友達となった。
時折集まっては自宅のアパートでゲームしたり酒を飲んだりして遊んでいたが、たまに夜にドライブするのが共通の趣味だった。
そして、月明かりが綺麗なその夜も、俺達はBの運転でドライブに出掛けた。
「どこか行く宛ある?」
俺達のドライブに目的はない。
ただ気の向くまま、主に運転手のBの采配で進路は決められているが、だいたい一時間ほどドライブを楽しんだ後は手頃な深夜営業している飲食店で夜食を済ませて帰るのが定石だ。
しかし、今日に限ってBの言葉を受けて助手席に座るCが提案する。
「じゃあ、ちょっとあそこいってみようぜ」
Cが提案したのは、地元で有名な絶景が楽しめる山奥の展望台で、よく若者が恋愛成就の願掛けに訪れるパワースポットみたいな所だ。
ただし、夜になるとそこは心霊スポットへと一変する。
夜な夜な女性のすすり泣く声が消えるだとか、近くの木に首吊り死体が現れるとか、不吉な噂が蔓延った結果夜になると一気に閑散と静まり返るのだ。
そこへ行くには公道から外れて山道に入る必要があり、峠に向かうほど家屋や街灯が少なくなっていく。
そのせいか今となっては昼間は恋人達が、夜には心霊スポットとして利用する者が後を絶たないカオスな場所となっていた。
「じゃあ、ちょいナビやって」
Bがハンドルを握る横でCがカーナビに近場の施設か何かのキーワードを入力していき、山道までのナビを開く。
「ああ、ここを曲がれば○○峠だわ」
Cがカーナビに表示されたルートの先を指で指し示すと、Bが横目でチラリと確認して「りょ」と頷く。
こうして俺達は進路を変えて車通りの少ない山道へ向かった。
開けた交差点を過ぎたのが最後の信号機となり、山の麓が見える頃には標識一つ見つけるのにかなりの間隔が開き、ネオンの明かりなんてものが見えなくなる。
簡素な道路と汚れたガードレールが道なりに続き、俺達を乗せた車のヘッドライトだけが光源となって前方を照らしていた。
山道に突入してからと言うもの、すれ違う車も無くただただBの車の走行音だけが響く中、俺は後部座席の窓からうっすらと浮かぶ夜景を眺めていた。
「そのスポットってもうちょい先?」
「たぶん、道なりに行けば着くんじゃね」
ナビの案内は山道入口にあったガソリンスタンドで途絶えているが、今はCがスマホの位置アプリを開いてルートを確認している。
しかし、いつまでたっても到着しない事からBがCのナビゲーションを訝しんでいた。
そんな折、Bが急ブレーキを踏んだせいで俺の体が助手席の背中に接触した。
「いてっ」
「あ、悪い」
謝るBを睥睨しつつも、何となく前方を見やる。
そこにはダウンコートを着込みえらく下を向いたシルエットがヘッドライトに照らされていた。
最後の一言は「ナ」かもしれない…
「最後の一言は「ナ」かもしれない…」
だといいですね。
あえて最後の主hン巻を言わないのがいい恐怖感が出ていい。