見知らぬ沼の夢

ある時、友達から「最近、妙な夢を見る」と、相談されました。
何でも、見知らぬ沼の淵に立って沼の中を覗きこんでいると、後ろから誰かに背中を押され、体が沼に嵌ってじわじわと底の方へと沈んでいってしまうのだそうです。
毎回、息苦しくて目が覚めるから最近では眠ることが怖くなり、今日も2時間程度しか睡眠が取れなかったと言っていました。
友達の顔を見ると、眼の下には酷いクマがあり、どうやら眠れていないのは本当のようです。
私は、「カウンセリングに行ってみたら？」としかアドバイス出来ず、その後は適当に近況報告をして別れました。

次に友達と会ったのは、夢の話しを聞いた3ヶ月後です。
3ヶ月の間、電話もメールも一切来なくて、こちらも忙しかったのもあり、夢の話しはすっかり忘れていました。

残業して終電に乗って家まで向かっていた時、電車の中でふと視線を感じて、そちらを見ると例の友達が居たのです。
相変わらず酷いクマがあり、眼光は鋭く髪はボサボサで、ちょっと近づきがたい風貌をしていましたが、意を決して声をかけにいきました。

友達「あ、久しぶり。何ヶ月ぶりだろうね」
私「3ヶ月くらいかな。こんな時間にどうしたの？確か家とは真逆の方向の電車だよね」
友達「うん…、あのね、呼ばれたの」
最後の言葉だけコソコソと小さな声で告げられました。
私「呼ばれたって、何に？」

友達「沼」

「え？」
理解が追い付かず、呆然としていると、友達は「ごめんね、ここで降りないと」と言ってそそくさと電車を降りてしまったのです。

それから、その友達とは全く連絡が取れていません。
その子を知っている他の友達にそれとなく聞いてまわりましたが、皆「突然連絡が取れなくなった」と言っていました。
友達は、夢の中の沼に呼ばれ、そこへ行ってしまったのでしょうか。
あの時、友達が降りた駅の名前を思い出そうとしたのですが、どうしても思い出せないのです。