とある老人ホームの写真撮影
投稿者:Bsen (7)
これは介護福祉士をしている友人佐藤さん(仮)の体験です。
田舎の某市の山間部は過疎化と高齢化を絵に描いたような土地で、そこには県内でも有数な規模の老人ホームがあります。
そこは完成してすでに20年以上経っていて、要介護の人も含めて幅広く受け入れています。
温泉や各種の娯楽施設までも付属していて、まるでリゾートのような巨大施設でした。
佐藤さんが出勤すると担当している部屋の老人の食事や身体や入浴の介助をしたり、リハビリのお手伝いをするのが日課になっています。
そんな佐藤さんが相手する老人の中には、認知症が進行している女性も含まれていて、ちょっとしたことで怒鳴り散らされたりと気苦労も多いのでした。
そんな日々を過ごしているなかで、佐藤さんがちょっと怖いと思ってしまうことが幾つもあったそうです。
例えば老人の中には死んだ人がそこに居るとか、死んだ人と喋ったなど語りだす人も珍しくはないと言うのです。
認知症やアルツハイマー症が進行するとしばしば幻覚や幻聴を伴うということで、表向きはそういう症状だからという話で済まされがちでした。
しかし身近にいる人はそういった話を頻繁に聞けば、しばしばゾッとしてしまうのは言うまでもないことでした。
それで佐藤さんはちょっと怖がりなので、夜勤が入ってしまった時には緊張してしまうと言います。
深夜の暗い施設の部屋を何度も巡回することになるので、そのたびに必要以上に恐怖が押し寄せるとのことです。
施設のある居室に、要介護の指定となっているYさんがいました。
Yさんは80歳くらいの高齢者で、数年前に骨折をしてから認知症がどんどん進んでしまったという人でした。
日常会話では会話はなんとか成立しているのですが、佐藤さんのことを孫と間違っているようで、本人は自宅で過ごしているつもりのようでした。
そのYさんの部屋は、数ヶ月前まではOさんという高齢女性が使っていたところだったそうです。
Oさんは病状が悪化したせいで、すでにこの世の人ではなくなっているのでした。
佐藤さんはそのOさんの面倒も見ていたので、彼女のことも未だよく覚えています。
それでこの部屋にYさんが移されて来た直後から、Yさんは奇妙なことを言い出したということです。
なんでも部屋の中に知らないおばあさんが現れるというのです。その人がどんな人か聞いてみると、太っていて猫背で、杖を持っていて、気がつくと部屋の中をさっと移動しているというのです。
佐藤さんには、Yさんが語るその幽霊の姿は、まるでOさんそのものに思えてなりませんでした。
実はYさんとOさんはまるで面識も無いことは、他のスタッフに聞いても分かっていたことなのです。
成仏できずにこの部屋にずっといるのだろうかというような話になると、仕事を辞めたくなる佐藤さんなのでした。
ある日のこと、Yさんのご家族が久しぶりに訪ねてきたので、現在の健康状態と、今後の介助内容などの相談をしたそうです。
その時以前に記念撮影した写真がちょっと写りがよくなかったので、もう一回記念撮影をしたいと申し出があったということです。
佐藤さんはこころよく了解したのですが、以前に撮った写真がどんなものだったのか、気になってしまいました。
それで訪ねてみると、変なものが映っていたので、良くないと思ったそうなのです。
詳しくは聞かなかったそうですが、その写真に映った変なものと部屋に出るという幽霊の姿が、どうしてもだぶってしまう佐藤さんなのでした。
話し合いが終わると、さっそく居室のほうに戻って記念撮影を始めることにしました。
参加したのはYさんの家族6人で、その顔ぶれは還暦間近の息子夫婦と、その子ども、そして親戚の面々でした。
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