近づくと頭痛がする男

私が昔働いていた飲み屋で、常連のお客さんがいたのです。

見た目は40代後半くらいのごく普通の眼鏡をかけたおじさんでした。

とても感じのいい人で、店長や私のバイト仲間とはよくお話していました。

でも私はその人になるべく近づかなかったです。

理由はその人の近くに行くと、不思議なそわそわ感と堪え切れない頭痛がしたからなのです。

私は特に持病があるわけでもないし、片頭痛持ちでもありません。

なのに、そのお客さんがいるときに限って、必ず頭痛がしました。しかも近寄れば近寄るほど頭痛がするのです。

私はそれが原因で、その人の接客はなるべくしなくていいようにしてもらいました。

バイト仲間は、なんか変な電波でも出てるのかね～なんて笑っていましたが、本当に自分でもこの現象は謎でした。

近づくと頭痛がする男ってかなり奇妙だと思うのです。

この人と最後に会話をしたのは、深々と冷える夜でした。

シフトに入ってレジに立った私が「うう…」と頭を押さえて前を向いたら、ぬっとそのお客さんがいたのです。

私は頭の痛みと戦いながら慌てて会計を済ましました。

そしたらその人が「ごめんね～僕のせいで痛いでしょう」と声をかけてきました。

私はその言葉にドキッとしました。どうして知っているのかと思ったし、どういう意味なのか聞き返そうとしたら、その人は「僕はもうすぐいなくなるからもう大丈夫。迷惑かけたね。」と本当に申し訳ない顔で謝ってきたのです。

そのまま帰っていった常連さんを私は引き止められませんでした。

そして次にシフトに入ったときに、バイト仲間からその常連さんが亡くなったことを聞いたのです。

よく聞いたら常連さんが亡くなったのは私と会話した日の当日だったらしいです。

帰りのタクシーの中で持病の発作が起こり、亡くなったと聞いて、動揺が隠せなかったです。

あの日私はこの常連さんから「僕はもうすぐいなくなる」と聞きました。

今考えるとまるで前もって自分の死を知っていたようでした。

あれから人に近づくと頭痛がするなんてことは一度もありませんが、あの頭痛の原因が気になってしょうがないです。

あの常連さんの死と私の頭痛に何か関係あったのでしょうか。そうだったらとても怖いと思いました。