虹色の光
投稿者:深幸〜みゆき〜深淵を覗く (6)
妹家族が新居を構えました。
その新築祝いの日に、キッチンで妹と交わした会話です。
全てが真新しいキッチンのお披露目の中、微かに穏やかな薫香。
見ると、渦巻くような虹色の光の中に姪っ子がいる写真でした。今はもう元気に幼稚園に通う姪っ子、その子がまだ赤ちゃんの頃の写真が何故キッチンに?
聞くと、私達が第三子だと思っていた姪の上に実はもう一人流産した子がいるとのことでした。そしてこの姪を写真に撮ると、以前は屋内外を問わず頻繁に光が現れていたというのです。ただし、この新居に入る直前の戸建て賃貸の期間を除いては。
それを聞いて、私も今なら妹に打ち明けられる、と抱いていた思いを伝えました。
妹家族が借りていた戸建ては通りに面した明るい住宅街の一画にありました。こじんまりとした少々古い和風の造りですが、門から玄関までの植栽も庭も手入れされており、これまでの住人の方が大事に住んでおられたのでしょう。十分な駐車スペースもあります。
三番目の姪の通院のため、妹夫婦から上のこども達のお守りと留守番を頼まれて訪問したことが一度だけありました。玄関を開けると、明るく暖かな日なのに何故かゾクッとするものを感じました。こども達に挨拶をしながらリビングへ進むと、穏やかな日差しの中でお互いに顔がほころびます。既にこども達だけになっていたので心細くなり始めていたところだったのでしょうが、元気を取り戻しあちらのお部屋こちらのお部屋と案内してくれます。
玄関脇の和室の客間、この扉を開けた瞬間、中から何か得体の知れないものが流れ出てきたように感じ、突然吐き気をおぼえました。特段何が置いてあるわけでもありませんでしたが「ここは大事なお部屋だから」とこども達に退室を促した私は早々に扉を閉め、留守の時間を過ごしました。帰宅した妹夫婦にはその日もそれ以降も何も伝えませんでした。
後日、妹家族から雛祭りのお誘いを受けました。七段飾りなのであの客間に飾っているそうです。前回訪問のときの悪寒や吐き気を思い出したものの、あれは気のせいと自分に言い聞かせ、喜んで出席の返事をしました。
ところが雛祭り当日、何故か気がのりません。主人や息子達には身支度をさせたものの、おかしなことにどうしても自分の準備をしたくないのです。それを主人に伝えると、主人も不思議そうな顔をしています。妹には急な体調不良で私だけ欠席の旨を電話で詫び、主人と息子達だけを向かわせました。
「雛祭りの日、あの玄関脇の客間に入ることを想像すると何故だかどうしても自分の準備が出来なかったの。そんなことで嘘までついてごめんね。
でも、そんなことが理由だなんて、賃貸とはいえ住んでる貴女達に話せるわけもなくて…」
初めてそう伝えました。すると妹は
「えー!?
お姉ちゃん、どうしてもっと早く教えてくれなかったの?
私達、あの家で変なことが続いたから、それでこの家を建てる気になったんだから」
と言います。どういうことなのかと訊ねると、三番目の姪の写真に明るい光の他に黒い煙のようなものが写るようになったというのです。それもあの賃貸に越してから。そしていつしか明るい光は写らなくなり、足元にばかり黒煙。看護師でもある妹は、まず姪の足をつぶさに観察し、念のため近くの整形外科を受診しましたが異常は無いとのこと。なのに、姪が足の痛みを訴え歩くのを嫌がるようになり、あちこち病院を変えて診察を受けてみると膝の手術が必要なことが判明。妹はすがるような気持ちで明るい光の頃の写真を見返している内に、黒煙の写真が…その黒煙は決まって客間で出ていること、その形が手の形をしていることに気付いたそうです。
その賃貸に越してからというもの、妹のエプロンの裾を引っ張られたり、こども達はまだ起きていないのに小さなこどもの走る足音が聞こえたりすることがあり、妹の中でもどうもそれらが漠然とあの客間と繋がったというのです。不動産屋に訊ねると、客間は増築された部分とのこと。
その後、霊感体質の知人に何も伝えず来てもらったらやはり玄関脇の客間をとても嫌がられ、地元神社にお祓いをお願いしたところ、お祓いはしていただけたものの転居を勧められたそうです。埋めてはいけないものを埋めてる場所で生活してると足蹴にしてるから足にくる、それも弱い者から順にくると言われたそうです。
「あの日、明るい光の写真を見返したおかげでバタバタといろんなことが結びついてこの家を建てたの。
あの光はもう写らなくなったけど、この水子ちゃんが教えてくれたのかなと思って…この子がいたらもっと賑やかだったかな、あなたのことも忘れてないよって、せめて写真だけでも大事にしようと思ってね」
初めて水子ちゃんの存在を知った私も、ささやかながら妹と一緒にお線香を供えさせてもらいました。
住む場所って大事なんだなー
妹さんの流産を知らなかったの??