小さいおじさんの秘密
投稿者:赤壁二世 (13)
俺の友達のKが行方不明になった。
Kは話題に事欠かない引き出しの多さから、よくクラスの中心にいるような人物で、陽キャから陰キャまで隔てなく気に入られていたため、ある意味最強のキョロ充みたいな存在だった。
そんなKが行方不明になる前、とある話を俺に聞かせてくれた。
これから話す内容は当時Kから聞いた話をそのまま記憶から呼び起こしたものだが、俺自身理解しきれていないので、そこは容赦してほしい。
ある日の下校時、俺はKとコンビニに寄った帰り、夕焼けに沈む歩道でその話を聞いた。
「小さいおっさんって見たことある?」
「は?」
それは何の脈絡もない突然の振り方だったが、俺は早々にテレビなんかで聞いたことがある小さいおじさんの幽霊、もしくはおじさん型の精霊?のようなものを想像し、Kにそう答えた。
「俺ら、この前小さいおっさん見たんだよね」
Kはしっかりとした口調で言い放った。
何でも、Kは昨晩、風呂上がりに麦茶を飲みながら自分の部屋に戻ったらしく、その時何気なしに机の下が気になり覗いてみると小さいおじさんがKが落としたであろう短い鉛筆を転がして運んでいるところを見つけたそうだ。
おじさんと暫く目が合った後、Kは何だか気まずくなって顔を背け、残った麦茶を頬張った。
そして、暫く落ち着かない空間でベッドに横になって漫画を読んだり、スマホをいじってゲームなんかして時間を潰したところで、再び机の下を覗いてみれば小さいおじさんは消えていたという。
「なんだそれ、うける」
俺は作り話だとしても面白かったので笑ってやった。
その日からだろうか、Kはたまに小さいおじさんの進捗を俺に話してくるようになった。
『昨日は、なんかベッドの下で横になってケツ掻いてくつろいでたわ』
『俺が置いといたクッキーなくなってた』
『なんか夜中に声かけられた』
Kの作り話は段々と同居家族がするであろう身近な間隔というか、まんま日常風景を語るような感じで親近感を通り越して「マジでお前頭大丈夫か?」なんて気持ちが前のめりに出てくる。
例えば、ペット自慢をする飼い主のように、Kは毎日面白おかしく小さいおじさんの些細な行動を報告するのだが、俺にとっては妄想内の創作話としか思えなくて、ペット自慢より質が悪く思えた。
数日後、Kはこれまでと違った趣旨の話を持ってくる。
「なあ、小さいおっさんの秘密って知ってる?」
冒頭の切り出し方はこれまでのKと至って変わりないが、今日はいつにもまして神妙な顔つきだったので俺は素直に聞き耳を立てて無愛想に「知らねえ」と答える。
「小さいおっさんが消えるところを見ると、それを見た奴も小さいおっさんに変えられるっていう都市伝説」
「なんだそれ」
俺は少しだけ吹き出しそうになったが、どうにか堪えきり、Kの話を聞くことにした。
「掲示板で見たんだけど、小さいおっさんは絶対に自分が消える瞬間ていうのかな、帰る瞬間だけは人間に見せないんらしいんだけど、もし人間がその瞬間を見たら小さいおっさんが怒って、見た人間を小さいおっさんの仲間に変えるらしいぞ」
「まあ、言われてみたら小さいおじさんの目撃談は聞くけど、実際あいつらがどこから湧いてくるのか分かんねえよな」
「だろ?」なんて食い気味で返事をするKをやや鬱陶しく思いながらも、俺は続ける。
小さいおじさんになっちゃったのか…
実際に小さいおじさんが消えるところを見た人はいないって言いますよね
浦島太郎的な怖さがありました。文章が洗練されていてひきこまれていった。