小さいおじさんの秘密
投稿者:赤壁二世 (13)
「で、なんでその瞬間みたら小さいおじさんに変えられんの?」
せっかく俺が興味を持って話題を広げてやったのに、Kは「さあ」の一言で済ませ、俺達はコンビニに寄って漫画雑誌を立ち読みして帰った。
これがKとの最後の会話だ。
翌日Kは行方不明となり、Kの両親が捜索願を出したのを聞いた時はマジで焦った。
最後に一緒に下校した俺に、Kの両親や学年主任、警察が話を聞きにきたが、正直最後の会話についてそのまま話していいものか随分と悩んだものだ。
小さいおじさんの話をしていた人間が行方不明になったと知ったら、頭がおかしくなって失踪したと思われても仕方がない。
なので俺は他愛のないゲームや漫画の話、そして本当に話してた進路の悩み何か当たり障りのない事を離してたと語り、俺への聴取は意外とあっさり終わった。
しかし、Kの捜索は進展がないらしく、一週間二週間と経過し、やがて季節を跨ぐようになると次第にKの話題も落ち着き始める。
ただ俺は今になって小さいおじさんの事が気がかりになってきた。
と言うのも、つい最近、学校帰りに部屋に戻り電気をつけた時だ。
点滅する電光に瞬きしていると、窓のサッシに小さい生物がもぞもぞ動いているのに気付いた。
点灯後まっこうから見つめれば、それが小さい人間、小さいおじさんだと脳が認識した瞬間、Kの事を思い出した。
あれから半年、Kは今どこで何をしているのだろうか。
サッシから体を起こして立ち上がった小さいおじさんを眺めながら、俺は久しくと会っていないKの姿を想起する。
そして、小さいおじさんが徐にこちらに振り向いたことで自然と目があった。
「あ……」
いや、そんな馬鹿な、と俺は呆気にとられた。
目の前の小さいおじさんの顔が、どことなくKに似ている。
Kをもう少し老けさせたらこんな感じだろうか。
その小さいおじさんは暫く俺の顔を堪能した後、くるりと踵を返してサッシの上を駆ける。
そして忍者のようにカーテンへ飛びつきカーペットが敷かれた床へと滑り降りると、俺の視線から逃げるようにベッドの下へと駆けこむ。
無性に気になった俺はその小さいおじさんを視線だけで追いかけた後、身を屈めてベッドの下を覗こうとしたが、ふとKの言葉が連想される。
『小さいおっさんが消えるところを見るとそれを見た奴も小さいおっさんに変えられる』
その言葉が俺の足枷となり行動を諫めることになる。
小さいおじさんがベッド下から出てこないか暫く待ちぼうけしたが、母が晩御飯に呼ぶまで出てくることはなかった。
それからというもの、俺もたまにだが、部屋の中で小さいおじさんを見かけるようになった。
Kの言う通り、小さいおじさんは本当におっさんのようにぐうたらと過ごしている。
俺もクッキーとかお菓子を食べやすいように小さく砕きテーブルに置いておき、朝確認すると無くなっている事に驚くものの内心嬉しくなった。
しかし、問題はそこじゃないんだ。
小さいおじさんの存在は百歩譲って認めるとするが、Kは何処に消えたんだ?
小さいおじさんになっちゃったのか…
実際に小さいおじさんが消えるところを見た人はいないって言いますよね
浦島太郎的な怖さがありました。文章が洗練されていてひきこまれていった。