廃ホテルで聞いた足音

福井県の日光ホテルは過去に集団自殺があった曰く付きの場所といわれています。

学生時代、酔った勢いでこの廃墟に殴り込んだことがあります。時刻は夜、当然真っ暗でちびりそうに怖かったのを覚えています。しかし一人で帰るとも言い出せず、「全然怖くないよ」と虚勢を張って探索を続けているうちに異変が起きました。

ザッ、ザッ、ザッ……足音が一人分増えているのです。

「おい」
「しっ」

私が言いかけるや仲間が鋭く制しました。ザッ、ザッ、ザッ……さらに足音の数は増え、今では集団が歩いています。

他の仲間も全員増えた足音に気付いたらしく、真っ青で黙り込んでいました。今や廃墟の中には夥しい人の気配が立ち込め、無数の視線がこちらを窺っています。

「うわああああ！」

数秒後、恐怖が頂点に達して一斉に車に逃げ戻りました。誰も欠けず帰ってこれたのは奇跡かもしれません。あの足音はやっぱり日光ホテルに取り憑いた幽霊のしわざだったのでしょうか。