ケガレの集約地
投稿者:笑い馬 (6)
私は心霊スポット巡りが好きだ。トンネル・墓場・井戸、H県内にある心霊スポットはほとんど回った。
心霊スポットに行く際に気をつけなくてはいけないのは、連れて帰らないことだ。いわく付きの場所には必ず何かある。恨みを残して死んだ霊、因習の名残、山の怪。それらのことをケガレと私は呼んでいる。死や災いをもたらすもの、というのがケガレの本来の意味だ。
ケガレを連れて帰ってしまったことが実は何度かある。心霊スポットから帰った後に、異様に肩が重くなったり、引っかき傷のような赤い傷跡が体に浮かび上がって治らない。いわゆる霊障と呼ばれるものが起きる。
軽度なものならば、部屋の四隅に盛り塩を設置して結界を張れば治る。重度なものは神社でお祓い(おはらい)をしてもらう。
一番危なかったのは、ニ年前にあるトンネルに行ったときだ。家に帰ってから毎日、黒く焼け焦げた顔の女が夢に出る。私の体は日に日に弱っていく。朝、枕を見ると髪が三十本、四十本とごっそり抜けている。食事の後、必ず吐く。盛り塩の結界も効かない。かつてない強力なケガレだった。夢に出る女の黒い顔は焼死を思わせる。焼死とは文字通り体が焼けて死ぬーーのではなく、物が燃えたときに出る煙で窒息死することが直接の死因になる。つまり焼死とは、体が燃える痛みと息ができなくなる苦しみを同時に味わってしまう死に方なのだ。黒く焼け焦げた顔の女は、さぞ大きな苦しみ恨みを抱いて死んだのだろう。
それほど強力なケガレでも、とある神社の神主はいとも簡単に調伏、つまり除霊してしまった。
心霊スポット程度のケガレなど恐れる必要はない。
神社に祭られている神の方がはるかに強い。
オカルト研究会に所属している友人のA子は「あまり軽々しく、危険な所に行くべきではないよ。本当に危ない所もあるんだから」と警告してくれるが、実際は大丈夫だ。ヤバイものを連れ帰ったときは神社の神主(かんぬし)が何とかしてくれる。
次はどこの心霊スポットがいいだろうか。迷った末に選んだのは、ある廃団地だった。
S県にあるその団地は昭和40年代に開発が始まり、人が住み始めた。団地があった所は元々が山で、山を崩して川を埋め立てその上に家が建てられた。しかし何があったか現在は、団地には誰も住んでいない。
土日の休みを利用して、私は廃団地に行ってみた。
団地というものは、全く同じ形、同じ外装の建物ばかりが等間隔に建ってあるから不気味だ。
手入れする人がおらず、コンクリート製の住宅はヒビ割れ、ツタが伸び、ガラスは割れて室内は散乱している。団地内のある一室に入ってみる。床には古い新聞紙、穴の空いたバケツ、衣服の切れ端たど、人が住んでいたころの形跡が残っている。
雰囲気は抜群だ。明かりといえば懐中電灯のか細い光のみ。
「ハハ」とつい笑い声を上げてしまう。最高だ。この不気味な雰囲気が私は好きだ。今日はテントを持ってきた。廃団地の中央にある公園。錆びたパンダの乗り物、鎖の千切れたブランコ。この公園にテントを張り夜を明かした。
日記を書きながら耳をすませて外の様子を伺う。テントの外は静まり帰っている。何か面白いこと、怪しげな影を見たり、霊障が起こったり、そんなことを期待するが何も起きない。結局朝までおかしな出来事は何もなかった。
翌日、明るくなってから団地の周りを散策する。団地に来るまでに下調べをしていたので、周辺のことはある程度知っている。
団地が立つ前にあった山。その『××山』は山というよりは小高い丘で、木々がみっしりと繁った昼なお暗い場所だったそうだ。この『××山』の近くには古くから人が住んでいた。人々は太古の昔からこの山に近付くことを避け、山そのものを不気味な所として忌み嫌っていた。
そういう場所にはケガレが集まる。
鶏や猪を人間が食事に変える。食事の後に残った骨や皮といった残骸をこの山に捨てる。
人が死ぬとこの山にある墓に運んで埋める。昔は土葬が一般的だったそうだ。
また、明治期には伝染病にかかった人間を隔離する施設がこの山に建てられた。
死体を家の庭に埋める者はまずいない。治らない伝染病にかかった人は隔離する。人は死や病というケガレを出来るだけ生活圏から遠ざけ、一箇所に集めてコントロールしようとするのだ。
死んだ動物を弔う『畜生石』と呼ばれる石、○○村の土葬墓、伝染病隔離施設の跡地。団地の周りにはこれらの遺構がひっそりと残っている。私はこれらを見て回った。イヤな雰囲気はあったが、あの焼け焦げた顔の女を連れて帰ってしまったトンネルに比べれば、格段に大したことはない。
心霊スポットは行ったそのときよりも、行った後が怖い。
ケガレを連れて帰っていないか、それが心配になる。ニ、三日は恐怖が続く。体に何か霊障が出ないか、恐ろしい夢を見ないか。
怖い。だが心霊スポット巡りはやめられない。何か恐ろしいことが起きるかもしれない、このスリルがたまらない。
団地からアパートに帰り、それから何事もなく五日過ぎた。
日中は仕事に行き、夜に帰る。今日は久しぶりに同僚たちと飲みに行っていた。飲み会も終わり、深夜十時、最寄りの駅からアパートまでの道を、酔った足どりでふらふらと歩く。明日の休みはどの心霊スポットを巡ろうか。そんなことを考えながら歩く。
小さなドブ川が流ているすぐ側の道に差し掛かったとき、後ろからヒタヒタ。足音。しばらく川沿いの道を歩く。足音はまだ付いて来る。
おかしい、私は酔って足元が覚束ないため歩みが遅い。それなのに一向に、その足音の主は私を追い越さない。
私は立ち止まる。足音も止まる。
私は少し早歩きになる。すると足音も同じ早さで付いて来る。
私の後ろ、二十メートル位の距離を常にキープして、足音が付いて来るのだ。
痴漢……なわけはない。すると、この前行った廃団地、何かケガレを連れ帰ったか。しかし、足音の形を取るケガレは初めてだ。体に不調をきたす、夢を見る以外の形を取るケガレなど経験にない。
急いでアパートに帰る。戸締まりをして、部屋の四隅に塩、厄除けに日本酒を飲んで頭から布団をかぶる。耳をすます。足音は聞こえない。恐る恐る、布団から顔を出す。何も異常はない。私は電灯の明かりをつけたまま就寝した。
夢を見た。
黒く焼け焦げた顔の女が道端に立ち尽くしている。ただ、それだけの夢だった。
目が覚めると、髪の毛がごっそり抜けていた。あのトンネルから帰ってきたときと同じ。食べたものを吐いた。これも同じだ。
黒く焼け焦げた顔の女はお祓いによって除霊されたはずだ。以降、あのトンネルには近づいていない。なぜ?なぜ今になってあの女が夢に出てくる?
前にあの女を除霊して貰った神社に電話をかける。またお祓いしてもらえばいい。簡単なことだ。しかし、「こちらの神社ではお祓いできません」とあっさり断られ、すぐに電話を切られてしまった。
別の神社にも電話をかける。すぐに断られる。また別の神社にかける。今度は、何か言う前にすぐ切られてしまった。明らかにおかしい。いずれもオカルト仲間が何度かお祓いをしてもらった過去のある、実績ある神社だ。断られるなんてあり得ない。
電話がダメなら、神社に直接向かえばいい。あの女をお祓いして貰った神社、電話をかけて断られたけども、とにかくそこに向かおう。
ケガレか…
あえて書くけど普通の神社に除霊出来る所は無いからね。
除霊の概念もない。副業でやってるのは密教系の寺くらいか。
そこも霊力ある坊さん居るとは限らない。
つまり病院と違って気軽に祓える所なんてほぼない。
それを踏まえた上で心霊スポット行くんだね。
この世のもので無いのを、どうしてこの世のものがどうにか出来ると思っているの?
神社の方は俗に言う「あの世」を彼岸とは言わないはずですが。
心霊が好きならばその辺りも勉強しておくと良いですね。
主人公は「除霊」って言葉使ってるけど、神主はちゃんと「お祓い」って言ってて「徐霊」の言葉を使ってない。
その辺を分けて書いてあるのが良かったです
す…スイカの名産地…
除霊と浄霊は違うんだったかな
除霊ならまた憑いちゃう可能性あると思う…
XX山並みの霊力を主人公が持っていればケガレ集合体の受け皿となって、悪霊使いになれそう
>> 実際は大丈夫だ。ヤバイものを連れ帰ったときは神社の神主(かんぬし)が何とかしてくれる。
ここめちゃくちゃ自己中で好き
お前さん そのうち死ぬよ
取り付かれ易い体質なんだから
結果的に他力本願、祓ってもらえばいいしーみたいな感じなあたり全く同情できないし、こんな人が懲りずに心スポ巡りして厄介持ち込むんだから迷惑も甚だしい。
途中まで読んでてさ、ある童謡が頭に浮かんじゃったんだ。
でも、茶化して万が一障りがあったらマズいし、思うに留めておこうと思ってコメント欄見てみたら、そのものズバリを書き込んであるのが目に飛び込んできた時は震えたね。
もう、例のメロディの替え歌がさっきからリピートしまくってて止まらないんだよ。
衰弱してるのにここまで文章書けるなら問題ないだろ、読み物としてはとても面白いです。
お祓いをしてくれる神社がそんな連絡しまくるみたいにたくさんあるとは思えないけど
オカルト仲間たちも神主なら何とかしてくれるみたいに思ってスポット巡りしてるって書いてあったけどそんなに何回も来るような奴のお祓いを引き受けるかね
高い金払ってたんならともかく
いちいち取りついては祓われるケガレとやらが気の毒に感じる
神道ごときに祓えるわけないだろ
寺生まれのTさんならあるいは・・・!!
これを乗り越えれば君は立派なケガレマスターだ!
心霊スポットって何が面白いのかわからなかったけど、なんとなくわかったような気がする。
パワースポットとかの方がいいんじゃないかな?
お祓いや徐霊よりもctや血液検査してもろたほうがいいんじゃないかな?
なんか出てるんだろなぁ!
その女の人の声がが聞こえたと書かれていないのがよりそれらしさを感じる…
凄く怖いかったです。
どの世界も一緒だね。存在を継続させるため、手段を選ばない。新型コロナも同じじゃん。ただ、一番えげつないのはケガレでもコロナでもなく、人間だけどね。
最後、女とキスして一緒にあの世に行こうってなったら胸熱展開だったのにな
性病にかかっても治してもらえばいいや
って風俗通いしてた男の話を思い出した
この人も神社にこだわらず、他の宗教を頼れば良かったのにな。
キリスト教会の悪魔祓いなら、ケガレの集合体に対応出来る可能性がある。
(聖書にイエス・キリストがレギオンと呼ばれる悪霊≒ケガレの集合体を祓う場面がある)
部屋に4箇所の盛り塩って一緒に連れ帰ったケガレも結界の中に閉じ込めちゃうことにならないのか?結界の中でケガレと同棲ってゾッとするなぁ。
日本酒は毎日結構飲んでるけど、毎日厄除けになってたんだなーえらい俺(^o^)
そういえば身内が亡くなったというだけの穢れでも死後49日間は「忌中」といって神社に入ってはいけないのが現代でも続いてる位なのに、穢れ集約地ごと神社に侵入された神主は度肝を抜かされたろうな〜w