プールの底に沈んでいたもの

子どもの頃市民プールで体験した話です。

その日は学校の友達と誘い合わせて市民プールに来ていました。珍しく利用者が少ない日で、貸し切り状態だったのを覚えています。

「疲れちゃった。むこうで休んでるね」
「わかった、いってらっしゃい」

プールサイドに上がる友達を見送ったのち、一人で泳ぐのにも飽きた私は水の中で何秒息が止められるかチャレンジを思い立ちました。

目一杯息を吸って勢いよく潜水し、ゴーグル越しに目を開けた瞬間、衝撃的な光景を目撃しました。

プールの側壁に設けられた排水溝から手が伸びているのです。白くて小さい子どもの手でした。

一体何故……驚愕に息を吐いて浮上する寸前、足首を掴まれました。排水溝から伸びた手のしわざです。

まずいと思った時には遅く、がぼがぼと泡が弾けて意識が遠のいていきます。私の体は排水溝へと引き寄せられ、抵抗虚しく足が吸い込まれていきます。

「大丈夫かっ！」

気付けば監視員のお兄さんが血相変えて覗き込んでおり、すぐ近くで友達が泣いていました。

辛うじて命拾いしたものの、あの手の正体が何だったのか今でもわかりません。
余談ですが数年前この市民プールでは事故が起き、子どもが一人溺れているそうです。