私が背負った蛇の怨念
投稿者:シイ (1)
車が走る音だけが響く車内で、しばらくの沈黙の後。
父は「怨念だよ」と一言口を開きました。
「おんねん、ってなに?」
「誰かがね、憎い、恨めしいって思う感情のこと。嫌いよりもずっと重たくて悪い感情だよ」
「その怨念と私と蛇にどんな関係があるの?」
「お前は、覚えていないだろうけど。生まれてすぐに髄膜炎のくも膜下出血で生死をさまよったっていうのは知っているだろう」
「うん」
「お父さんとお母さんはね、なんとしてでもお前のことを助けたくて、それはもう神にもすがる思いで散々神社やお寺とかも回ってね。なにかお父さんたちの行いが悪かったせいで罰が当たったんじゃないかって、そしたら…お前の産土さんのところでこう言われたんだ」
『この子には蛇がついている』
「お父さんもお母さんも身に覚えなんてない。よくよく話を聞いたら産土さんの神職の方が『お子さんは怨念を受けている、この子の先祖が蛇の恨みを買ったのだろう、動物の怨念は強いからね。頭の病気だというなら、蛇の頭になにか関係のあることなんだろう』っておっしゃるんだ」
私は、このとき全てが繋がったような気がしました。
「そうか、おじいちゃんが。蛇の頭をねえ…たいそう苦しかっただろうね」
この一言でどうしたことか、私は涙腺が決壊したかのように声を上げて泣きました。まるで私自身が無情にも頭を殴られ続けていたかのような、そうした苦しみを初めて理解されたような気がしたのです。
父も、母も、産土さんで聞いたというこの話について半信半疑ではあったのでしょう。
しかし、障害も残らず無事に回復した。まるで奇跡ともいえる事実に、お祈りが通じたのかもしれないという心持ちから、真っ向否定することもできず、頭の片隅に恐怖として残り続けた結果が、私を蛇に近づけさせないという方向に進んでいたのだと思います。
あれから月日が流れ、20歳。短大を卒業し地元を離れ就職した私に、もうあの頭痛の症状はありません。
目の奥をえぐられるような痛み、何度も何度も叩きつけられるような脈動。出生後すぐに発症したくも膜下出血。
私は祖父と、曽祖父の時代から巡る因果を清算することができたのでしょうか。
今度地元に帰ったら、産土さんにお参りに行こうと思います。
凄い話…
蛇って何か神秘的なものがあるのでしょうね