人形の町での不思議なできごと
投稿者:心結 (5)
青になって信号を渡りはじめ、一歩一歩、その女性との距離が縮まっていきます。
変でした。
その女性、足が片方真逆だ。
真逆というのは、普通はつま先が前、かかとが後ろのはずなのに、その女性はかかとが前にありました。
見なかったことにしよう。障がいかもしれない。
信号の真ん中あたり、すれ違う瞬間。
「なんでわかった・・・・」
女性は私にそういったのです。
そして何かを落としたので慌ててひろうと、それはさっきのお店の人形がさしていた簪でした。
私はパニックになり、その女性を振り返ると、そこに姿はありませんでした。
見えたのは私だけなのか。この簪も私にしか見えていないのか、そんな風に思いましたが、今あった出来事を友達に話すことも怖くなっていたのです。
すると、さっきの男子が声をかけてきました。
「今の、やばかったね。大丈夫?」
「なんなの!!!さっきの人!!」
「それは?」
「これ、さっきの人が落としていった簪。最後のお店の人形がさしていた簪と全く同じなの。なんかわからないけど、私、最後にみた人形は生きている気がしたんだ。一回バラバラになった人形で、お店のご先祖が丁寧に修復して、自分の髪の毛を埋めたんだって。この簪はそのご先祖の簪なの。」
「なるほどね。その人形、怒ってるね。」
「どうして??」
「わかんないけど。バラバラになった話をみんなにされるのが嫌なんじゃないかな。その話、お店の人にした方がいいね。簪も返した方がいい。」
先生に事情を話し、帰りにもう一度そのお店によってみることにしました。
お店の方にそのお話をして、簪を返したところ、それはそれはびっくり驚いていました。ですが、重い口を開くように話し始めたのです。
「その変な足って、左足じゃなかったかしら。」
「はい!左でした。」
「これをみて」
人形の着物をめくり、左足を見せてくれました。
「どうしても左足だけ見当たらなかったのか、これだけ手作りの足でね。不格好でしょ。この町ではお人形様は家宝だったから、足が一本手作りなことをからかわれたこともあったそうなの。それがご先祖の、今でいうコンプレックスみたいになっちゃって、一番いい着物を人形用に仕立て直して、簪も一番高価なものを刺したそうよ。お人形様は好きでバラバラになったんじゃないのに、からかわれるなんて残酷よね」
「そのバラバラになったお話を、みんなにしているのですか?」
「みんなそれぞれにエピソードがあってね。この話は先祖が手記として残した話だったの。でもそんな風にこのお人形の魂が町に出ているなら、今後は控えた方がよさそうね。びっくりさせてごめんね。」
その後、そのお人形は神社でお祓いを受け、これまで以上に大切に扱われているそうです。
私たちが生まれるずっと前から、いろんな時代のいろんな出来事を見届けてきた人形。
埼玉県にある町ですか?