ただそこに居た
投稿者:ひまわり (18)
「何で今日に限って網戸にしたまま寝たんだろう!どうしよう、ヤバいヤバいヤバい!!!」
後にも先にも感じたことのない恐怖で、頭がおかしくなりそうでした。
ひらすら息を殺し、朝が来るのを待ち続けました。
部屋の明るさからして、夜明けまではあと少しだったと思うのですが、そのときは何時間にも感じられました。
やがて、東向きのベランダからカーテン越しにオレンジ色の朝日が差し込み始めると、ふっと体が軽くなりました。
「居なくなった…」と直感で分かりましたが、その後もしばらく恐怖は続き、再び眠れたのは、完全に朝になってからでした。
次に目が覚めたのは9時頃。
そのときの私は、すでに冷静さを取り戻していました。
「きっと網戸にして寝たことが潜在的に気になってて、それが金縛りと重なったことで、あんな錯覚に陥ったんだろう」と思っていました。
しかし、私が起きたことに気づいた彼女が、開口一番こう言ったのです。
「今日の明け方ごろさぁ、けっこうヤバかったよねぇ!ベランダにずっと何かおってさ。人か人じゃないかはよく分からんけど、とにかく、ずぅーーーっとこっちの様子うかがってんの!あれ、網戸になってることに気づかんかったからよかったけど、バレてたら絶対入ってきてたよ!いやー、あんなヤバいの久しぶりやったわ!あははは!殺されるかと思ったー!」
それを聞いて、私はただただゾッとするしかありませんでした。
もしも私が昨日の出来事を彼女に話した後でそういう話が出たのなら、「私に合わせて話を盛っているのだろう」ともおもえましたが、私が一言も話さないうちに、そんな話が彼女のほうから出てきたのです。
嘘でも盛っているわけでもなく、本当なんだなと思いました。
ましてや、さっき話したように不思議な体験を何度か共にした相手ですから、信憑性も余計に増してきます。
結局、ベランダにそれの気配を感じたのは、その日だけの出来事でした。
彼女が帰った後も2年間そこに住み続けましたが、それ以来、不思議な体験も怖い体験もしていません。
もちろん、網戸だけで寝ることも、それ以来一度もしていません。
それにしても、あれは一体何だったのでしょうか。人かどうかも分からない。
でも、確かに、ただそこに居たのです。
なぜあの日だけそこに居たのか?何のために居たのか?なぜ網戸だということに気づかなかったのか?何のために中に入ろうとしていたのか?そして、もしも中に入ってきていたら、私たちはどうなっていたのか…?
考えれば考えるほど分からないことだらけです。そして、それが余計に恐怖を掻き立てるのです。
理由もなく、いわくもなく、ある日突然、理不尽でどうしようもない恐怖に晒される。
それを考えると、怪異なんてものは特別な経験でも何でもなくて、日常のすぐ隣にあるものではないか。そう思わされます。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。