まだ見ぬ先にある港
投稿者:Ash (6)
しかし、私の目の前にあるのはただの車道であり、波の音は聞こえません。
確かに十数年時間が経ってはいますが、海や港がいきなり道路に変わる事なんてないはずです。
私は訳が分からなくなりながらも、冷静になるまで待ち、その場をさりました。
その夜、母親と話していて、あの港の話をしました。
母親は「何言ってんの?この近くに港があるわけないじゃん。この辺は一面田んぼ道なのに」と笑いながら言いました。
私も「だよねー。見間違えだったのかなー」と無理に笑いながら返しました。
そう、ここら周辺は田んぼが多い平野地帯。海なんて車でもかなりの時間を要する場所だ。
それなのに、幼少期の私は港および海にたどり付いてしまった。
あの時の違和感等を思い返すと、港に着いた時と出た時のいつもの散歩道との間の記憶が全くないのだ。
本当にその過程の記憶はちゃんと残っているのに、そこだけ、しっかりと切り取られている。
港だけ、別の次元にいた感覚さえも感じた。
そんな事を思いつつ、私は一つの事を思い出した。
「三途の川」
川ではなく、海ではあるが、人気も無く、薄暗い港。
私はあの時、この世とは違う場所にいたのかもしれない。
そして、この世とは違う場所という言葉でまた別の事を思い出した。
「きさらぎ駅」
あれもこの世とは違う場所であり、体験者は気づいたら、その場所にいたというところも一致する。
あのまま港に居続けたとしたら、もうこの世に戻ってこれなかったのかもしれない。
実は、あと少し進んだら、誰かが現れて、私をどこかに連れ去ってしまっていたのでは。
そもそも、あの時私は何故、あの場所にたどり着けたのか。
そんなこと馬鹿馬鹿しいと思いつつも少し恐怖心を覚えるような事を私は自分の中で反芻させては、理解を拒んだ。
子供の時に不思議な体験をするという事は割と良くある話ではあるが、私の場合はこの港の話がそれに値します。
子供の頃の体験なので、記憶は断片的ではありますが、その時の記憶は強く残っており、あれが見間違えだったということは、未だに半信半疑な状態です。
今でも、あの薄暗い景色、無機質な波の音、誰もいない船、一面コンクリートの地面を覚えています。
あの場所がどこだったのか、自分自身が何処かにワープしたのか、それとも歩き疲れてその場でうたた寝してしまったのか。
現実的な事から、非現実的な事までを色々と空想してしまいます。
あの時の体験が事実か夢か。実際のところ、もう大人な私にとっては有耶無耶にして「小さい頃の思い出」として、完結させるしかありません。
あの散歩道で怖い噂なんて聞いた事も無いです。
ただその近くにある用水路で昔、子供が流されて亡くなったという話は聞いた事はありますが、
それが関係しているかどうか、私にはわかりません。
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