真夜中の山道に現れた有り得ない車の行列
投稿者:空穂 (6)
そのうち、道が大きなカーブに差し掛かった。
何気なく前を見ていたAは、ふいに眼に飛び込んできた光景にギョッとした。
Aの前を走っている車は、一台ではなかった。
二台、三台……いや、もっともっとたくさんの車が、ズラーーッとAの前を、渋滞のように並んで走っているのだ。
数台ならまだしも、こんな真夜中の旧道では絶対にありえない数の車だったという。
それが全て、ノロ……ノロ……と、徐行のようなスピードで進んでいるのだ。
あまりの異様さに、Aは心臓が止まりそうになった。
しかし、来た道を戻ろうにもUターンできるほどの道幅はないし、バックで運転できる自信は全くなかった。何より、今から戻っていてはお爺さんの最期に間に合わないかもしれない。
Aは、きっと近くでなにかイベントでもあったんだ、その帰りの車がたくさんいるんだ……と、必死に自分に言い聞かせながら、その奇妙な行列の最後尾に参加していたという。
Aが渋滞の後ろをついて走ったのにはもう一つ理由があった。
もう少し進めば、この旧道も二車線に増える箇所があるのだ。
そこを一気に進んで、このおかしな行列をさっさと追い抜いてしまおうと考えたのだった。
Aは遅々として進まない渋滞を必死に耐え、脂汗を滲ませながら、ノロ……ノロ……と真っ暗な道を進み続けた。
そして、ついに車線が増える箇所にたどり着いた。
ホッとしたAは一気にアクセルを踏み、異様な行列の隣を追い抜こうとした。
しかし、数台の車を抜いたところで、Aはさらに異常なものを目撃したという。
暗闇の中、ズラーッと並ぶ車たち。
その真っ暗な車内ひとつひとつに、生気のない真っ白な運転手の顔が、ボウっと浮かんでいるのだ。
Aは悲鳴を上げた。
追い抜いていく車の全てに、無表情で暗闇を見つめる白い顔だけが見える。
この世のものとは思えなかった。
Aはとてもじゃないが隣の車線を見ていられなくて、ガクガク震えながら猛スピードで車を飛ばした。
渋滞の列はなかなか途切れない。追い抜いても追い抜いても暗闇の向こうから車が現れる。
Aはほとんど泣きそうだった。
しかし、とうとう渋滞の一番先頭の車が見えた。
やっと終わる、とAはホッとして、つい、その先頭の車に目をやったそうだ。
その車内にいたのは、Aのお爺さんだった。
一瞬しか見えていないし、顔なんて判別できるわけがないのに、なぜかAはその顔を見た瞬間、お爺ちゃんだ、と分かったそうだ。
衝撃のあまりバックミラーを見ると、お爺さんの正気のない無表情が、暗闇の中スーッと遠のいていく。
Aは涙を流し、お爺ちゃん、お爺ちゃん、と呼びながら無我夢中で運転した。
ようやく山道を抜けてから数十分後、ようやく病院に到着すると、先に来ていた家族が泣きながらAを出迎えた。
一足遅く、お爺さんは息を引き取っていたそうだ。
凄く面白かった!
おじいちゃん、実は連れて行こうとしてたとかだったら怖いな
想像したら怖すぎる
死者の渋滞はAにお別れをする為に時間稼ぎをした爺ちゃんが引き起こした。
最期、間に合ってればそういう解釈も出来るけど間に合ってへん。
どうも腑に落ちない話。でも、これこそが「実話」の醍醐味。