迷い込んだ「抜け出せないトンネル」
投稿者:峰 (38)
娘が産まれたばかりの頃、私はとても疲弊していた。
初めての出産に、初めての育児。夫は朝早くから夜遅くまで働いており、私は実質ワンオペで子どもの世話をしていた。
娘は夜泣きが酷く、日中もおんぶや抱っこでないとお昼寝をしてくれない。
慢性的な睡眠不足だった。
だからだろうか。ある日、奇妙な体験をした。
私は車で30分ほどの実家へ帰省した帰りだった。夜の山の中の一本道を、車で走っていた。
後部座席にはチャイルドシートに乗った娘。
ちょうどお腹が空いたのか、激しく泣いていた。
実はその日、私は実家の母親と喧嘩をしてしまい、気分がとても落ち込んでいた。
きっかけは些細なものだったが、口論になり、本当は泊まるはずが飛び出して帰ってきてしまったのだ。
日頃の疲れもあり、私はとても暗い気持ちだった。
ギャン泣きする娘に、「もうちょっとでおうちに着くからねー、ごめんねー」と声をかけながら、暗い山道を運転した。
途中でトンネルに入った。
古くてボロいが、ほんの10秒ほども走れば抜ける、ごく普通のトンネルだ。
いつものように運転していたが、私はふと違和感を感じた。
なんだか、いつもよりトンネル内の照明が暗い気がする。
普段は真っ白な灯りなのに、今日はなぜかぼんやりと曇っているというか、オレンジがかった灯りなのだ。
変だなと思うことはまだあった。
トンネルが、長いのだ。
いつもならすぐに抜ける短いトンネルなのに、なぜかなかなか終わらない。
先を見ると、向こうのほうに終わりが見えるのだが、ちっとも近づいてこない。
もう30秒、いや、もっと走っている気がする。
ゾワゾワしてきた。そしてもっとおかしなことに気がついた。
さっきまでギャン泣きしていた娘が、ピタリと泣き止んでいるのだ。
娘は一度泣き出すと抱っこするまで泣き止まない。勝手に泣き止むなんてありえなかった。
「◯◯ちゃん?◯◯ちゃん?」
呼びかけるが、娘が動く気配すら感じられない。
「◯◯ちゃん、いるの?◯◯ちゃん!」
必死に叫びながら運転する。まだトンネルは終わらない。
娘が心配で胸が張り裂けそうだった。
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