うわん
投稿者:夏目 (1)
器用な上運動神経のいいAは、それでもものともしない勢いで、荒れた植物達の群れの中を走り抜けて行ってしまった。
残された僕とBはかなり焦っていて、虫のことなんてもうどうでも良くなっていた。
がむしゃらに木々をかき分けて進んでいると、その最中、視界の端に何かが映り込むのが分かった。
見るなと脳が意識的に司令を送るより早く、僕はそっちの方へ目線を動かしていた。
木々の作り出した暗闇の狭間に見えた人型のソレと、確かに目が合う。
思わず声に出して叫んだのは、後にも先にもこのときだけだと思う。そのくらい、パニックになっていた。
そこからはあまりよく覚えていない。
気がつけば敷地を抜けており、AとBとはその場で解散した。
そこからの帰り道、僕は誰かについてこられているような気がしてならなかった。
それから1年経たずして、その廃屋は敷地ごと整地され、取り壊された。
Aから聞いた話によれば、もしかするとそれは「うわん」という妖怪の仕業かもしれないと、Aの祖母から聞いたとの事だった。
僕もそれから気になって何度か調べたが、詳細不明とあって、具体的にどんな存在なのかまではわからなかった。
しかし確かに、それに近しい何かであったように思う。聞こえた声も、「うわん!」と言う怒声だったと思えばそんな気もしてくるのだった。
これを書いていて、思い出すうちに色々と怖くなってきてしまったのでこの辺にしておくが、とにかくそれ以来、僕は肝試しには絶対に行かないと決めている。
世の中の常識の範疇を超えた出来事というのがきっと必ず起きてしまう。
そんな気がするからだ。
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