失われた大地と蘇る記憶の先に
投稿者:ハイランダー (1)
そうすると、とある古寺に迷い込みました。というか、行き止まりだったその先に古寺があったのです。
私はふらっと、その境内に入ってみました。私には何となく分かりました。ここに来たのは初めてだけど、初めてではない。あのお寺と感じは違うけど、厳かな感じは似ている。そう思いました。
境内は思ったより広くて、歩くのも大変でした。でも、私は何となく期待と、そして不安を感じながら、そのゴールと思しき、お堂を目指して歩いていきました。
そして、そのお堂につき、静かに手を合わせた後、何故か分かりませんが、呼ばれたような気がしました。
私は誘われるままに進んでみる事にしました。
そして、誘われた場所は、多くの石像があり、池があり、何というかこのお寺の中で最も強い気を感じる場所でありました。
私は何の疑問を感じる事もなく、祈りをささげた後、池の水を覗き込みました。理由があった訳ではありません。そうしたかったというべきでしょうか。
しかも、到着した時間は、他に何人かの人がいたような気がしていましたが、気が付くと私一人となっておりました。
そして、どれ程の時が流れたのでしょう。何故かとなりに壮年の女性が同じように祈りを捧げて、私と同じように水面をじっと眺めていたのです。
私はハッとしました。ここはあのお寺とは全然別の場所にあります。
宗派はたまたま同じでしたが、その位しか共通点はなかったでしょうか?
それはさておき
「あなたもお祈りですか?」
彼女は不意に話しかけてきました。私ももう少年ではありません。それなりに社会の荒波にも揉まれてきた自負があります。
「そうです。理由はありませんが、ここに呼ばれてきた様な気がするのです。」
訳が分かりませんが、あの時の自分はそう答えるしかありませんでした。
本当は
「あなたはあの時の女の子なんですか?時を越えて会いに来てくれたのですか?」
と聞きたかったのだと思います。
彼女はぽつりと言いました。
「多分ですが、私はあなたに会う為にここへ来たのだと思います。私も今日、何かに誘われたかの様に、ここへ来ました。その理由は分かりませんが。小さな女の子の声だった様な気がします。」
その時、私は確信してしまいました。私は彼女に会いたい、会えるかもしれないと、その寺へ行きました。きっとどこかで彼女は私を呼んでいたのかもしれませんね。あるいは長らくその寺を訪れなかった私に文句の一つでも行ってやろうと、そんな気持ちだったのかもしれません。
「それは間違いないと思います。今日は会ってくださって有難うございました。」
私は素直にお礼を述べました。彼女はもしやとは思いましたが、あの女の子ではない、それは何となく分かりました。
彼女はきっと、もうこの世界にはいない、だけど、ほんの少しだけ私の前に仮初の姿で現れてくれたのだと思います。
私は何故か涙が止まりませんでした。ただ、夕日の光が私を優しく包み込んでくれます。とても悲しいけど満たされた様な、そんな心地がしていました。
またいつになるか分かりません。でも今度はちゃんとお参りしてこようとは思っています。
こういう体験談持ってる人って多そうだよね