山にいる
投稿者:藤野 (11)
短編
2021/05/12
21:04
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――――いた。女だ。女に化けている!
俺はおかしくなるほどスピードを出した。何回も途中で曲がったが、一度も横は見なかった。だんだん木々がまばらになる。山を抜け、ちらほらと民家が見えてきたところで俺はようやく落ち着いた。
途中にあれがいたかは分からない。でも見ていたら、俺は恐怖でどうにかなっていたと思う。
街灯が眩しくなるくらい増えてから、ようやく我が家に着いた。といっても古いアパートだ。
座席に寄りかかった俺の背中には服がまとわりついており、気持ち悪い汗をぐっしょりかいている。
……助かった。
車から降りる。俺は目に入った光景に驚愕した。
……もし、俺があのとき、車に乗っていなかったらどうなっていただろう。もし、途中で事故を起こしでもしていたらどうなっていただろう。今のように無事ではなかったんじゃないか。
――車体は、切り付けられたような傷で埋め尽くされていた。
膝がガクガク震える。汗が気持ち悪い。
今日は嫌に暑い日だ。
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