そして数年後、その母親も家の中で亡くなっているのが発見されたそうです。
「それ以来、あの家には誰も住んでない」
父はそう言って、私の頭を撫でました。
「もう近づくんじゃないぞ」
私はその夜、なかなか眠れませんでした。
あの女性の笑顔。
クッキーの味。
そして最後に聞こえた女の子の声。
考えれば考えるほど、怖くなりました。
それから数日後。
学校から帰る途中、あの家の前を通りかかりました。
庭には相変わらず雑草が生い茂り、玄関先には錆びた自転車が倒れていました。
ふと、縁側に目をやると、障子が少しだけ開いていました。
その隙間から、白い手が出ていました。
手には赤いゴムボールが握られていました。
私は怖くなって、走って逃げました。
その日の夕方、母が近所のおばさんから聞いた話を教えてくれました。
あの家で亡くなった女の子は、生前、赤いゴムボールがお気に入りだったそうです。
いつも庭で一人遊びをしていて、近所の子供がボールを飛ばしてくると、嬉しそうに拾って返していたらしい。
そして、母親が亡くなる少し前。
近所の人が家の中から、こんな声を聞いたそうです。
「お母さん、今日はお友達が来たよ」
その後に、母親らしき声で、
「そう。よかったねえ」
と返事があったそうです。
私はその話を聞いて、背筋が凍りました。
あの女性は、私を娘の友達だと思っていたのかもしれません。
そして、あの女の子も私と遊びたかったのかもしれません。
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