「まあそんなところかな。」
俺にとって人生は苦く辛いものだ。彼女の言うことは正しい。いつか、きっといつか。甘さがこの苦味に加わって、旨いコーヒーになるんだと、そう信じてずっと努力した。でも、一体何を目指して努力していたのだろう。勉強したって、大学にいけるお金なんて無いのに。それで言えば、彼女は俺の人生に注がれたミルクのようなもので、ブラックの人生をほんの少しだけカフェオレにしてくれる存在だった。俺は、彼女のことが好きになってしまっていた。全てを投げ出して、このまま彼女とずっと一緒に居たいとすら願った。
彼女は、首を傾げて優しい笑顔を見せながら、こう続けた。
「だからさ、もう苦い思いしなくていいんじゃないかな。」
*****
とうに喉が潤ったカラスは、屋上に一人でいる少年を眺めていた。一匹でボソボソと呟く彼が物珍しかったのか首を傾げながら。
カラスは人間よりも知覚が敏感で、少年の隣に”何か”がいることはなんとなく感じ取れていたが、姿までは見えない。
少年はひとりですすり泣き、何かを決心したかのような、夕焼けの空のような、極めて澄んだ顔をして、手すりを跨ぎ、越え、そのまま空へと飛んだ。人間には翼が無い。空を飛べるはずもないのに。
その様子を傍観していた”何か”の姿が一瞬揺らぎ、笑ったように肩を震わせ、下を覗き込む。
「すっご。私もこんな感じで死んだんだ。」
「ま、これからはずっと一緒だね。」
用が済んだカラスは大空へと羽ばたき、
残された缶コーヒーが、カランと音を立てて倒れた。
蝉の鳴き声は止まない。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。