そこらで蝉が煩く鳴いている。
あまりに眩しい日差しが、雨に濡れたアスファルトを照らすものだから、この辺りは特に夏の匂いが強い。
都会とは言い難いが、寂れては無い。かといって緑が多いわけでもない。そんな街のほんの一角にぽつりと建っているマンションの屋上に、一羽のカラスが飛んできた。カラスは、割れたコンクリートにできた水溜まりで喉を潤し、周りを見渡す。屋上には既に先客がおり、手すり越しに街を見下ろしていた。
*****
生温い風を浴びながら見下ろす街は限りなく灰色に塗りつぶされたように見えた。
約束の時間はとうに過ぎていて、世界に自分1人しかいないのかもしれないと大袈裟なことを思う。
こんな性格だから友人など1人しかいないのかもな。自嘲気味に一人で笑って、持参した缶コーヒーに口をつけたその時、背後で軋んだ扉の音が聞こえた。
「ごめん!お待たせ。」
その声があまりに唐突だったから、含んだコーヒーが変なところに入ってむせた。
「ゲホッ… びっくりさせんなよな。」
「あはは。何をそんなビクビクしてるんだか。」
「全く…もう来ないかと思ったよ。」
「あんたと話すくらいしか、もうやることがないからね。来るしかないじゃん。」
淡く儚い空気を纏った彼女はまるで、朝焼けの心地よい冷えた空気のようで、一人ぽっちの世界を、薄暗い孤独の空気から、心地良い朝の一人の時間へと変えてしまう程の力を秘めていた。
「そんな不味いものよく飲めるよね、ほんと。」
俺の缶コーヒーを見つめてそんなことを言う。
「ほんと子供だな。ちゃんと美味いさ。」
「苦いものを美味いって思えるのって、ドMだよ。ドM。」
「うーん。まあそうかもな。」
「コーヒーもだけど、ピーマンとか、ゴーヤとかさ。あんなに苦いのに、美味しいって言ってみんな食べるじゃん?なんかさ、人生みたいだよね。」
「いいことばっかじゃないし、苦かったり、辛いことの方が多いのに、それでも人は楽しんで生きてく。みたいな?」
そうかもな。そう言いかけてやめた。
「大きく出たな。突拍子無さすぎるだろ。」
「私は苦いのは嫌だな。お砂糖たっぷりの人生が一番だよ。」
「今が苦しくても、将来はきっと良くなるなんて無責任な言葉、嫌いなんだよね。人間は今しか感じ取れないから。」
「気が合わなさそうだな。」
「なによ今更。まあ、私はそうは思ってないけどね。」
そう言うと、ふわりと俺の横に座った。
今にも消えてしまいそうな小さな横顔を見ながら、これまでの人生を反芻した。
























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