奇々怪々 お知らせ

心霊

ゴンゾウさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

人混みの異物
長編 2026/02/10 18:16 233view

━━━ 取材ノート断片 ━━━

2/XX 18:40 カフェにて初回取材
・Aさん、半年前に転勤でこの街へ
・歩道橋は駅南口。築三十年以上、鉄製
・「見つけてしまう」→「匂いがくる」の順番
・「層が違う」「フィルムが違う」
 →視覚的には差異を特定できない
 →しかし知覚は確実にしている
・迷回すると匂いが「近くなる」——罰?
・前のライターの件——深追いすると黙る

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第二部 現地調査

翌日。十六時。単独で現地に向かった。

駅前ロータリー。帰宅ラッシュの入口。歩道橋の階段を上る。鉄の手すり。塗装が剥げている。西日が強い。
歩道橋の上、人が多い。サラリーマン、制服の学生、イヤホンをした女。全員が全員、帰る場所のある顔をしている。日常そのものだ。
何も感じない。
中央あたりで立ち止まった。スマホを見るふりをして、行き交う人を観察した。排気ガス。アスファルトの熱。どこにでもある夕方の街の匂い。
Aさんの思い込みか——そう思った瞬間だった。

視界の端で、何かが引っかかった。
向こう側から歩いてくる人の流れの中。一人だけ。
何が違うのか分からない。歩き方は普通だ。服装も普通だ。速度も周囲と変わらない。
だが——「違う」。
Aさんが言っていたことが、体で分かった。「層が違う」。周りの人間は全員「この夕方」にいる。買い物の帰り、仕事の帰り、今日の晩飯のことを考えながら歩いている。
あの一人だけが——どの時間にもいない。ここにいるのに、ここにいない。
すれ違う。
顔を見た。

——見たはずだ。
でも、覚えていない。今すれ違ったばかりなのに、顔の造形が思い出せない。男だったか女だったかすら——
振り返った。人混みの中、もういない。
そして。
来た。
鼻の奥——線香。
風に乗ってきたんじゃない。鼻の、内側から匂っている。粘膜に直接塗りつけられたような。誰かが線香を持って、俺の顔の前に差し出しているような。
右肩が、重くなった。
Aさんが言っていた通りだ。重さ。温度。右半身に、何かが——寄りかかっている。
西日で影が伸びている。俺の影は左に伸びている。だが右側に——影があるべき空間に、影がない。影がないのに、光が遮られている。
何かがそこにいる。見えない。だが——光を遮っている。
見つけたのは俺なのか。それとも——見つけたと思わされたのか。
歩道橋を渡りきった。階段を降りた。
匂いは消えなかった。

2/6
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。