「俺さ、最近楽なんだよ」
理由を聞くと、こう返ってきた。
「選ばなくていいから」
導きの会では、
質問をすると、必ず一度沈黙が入る。
そして、誰かがこう言う。
「今は、その選択ではありません」
理由は説明されない。
でも、不思議と納得してしまう。
後から考えるとおかしい。
納得させられている感覚があった。
家でも変化が出た。
親が喧嘩しなくなった。
テレビの音量が下がった。
夕飯のメニューが、毎日ちょうどいい。
完璧すぎた。
ある晩、母がぽつりと言った。
「最近、考えなくて済むの」
その言い方が、
嬉しそうでも、楽そうでもなくて、
ただ空っぽだった。
導きの会に行ったことがないはずの人まで、
同じ言葉を使い始めた。
「今は違う,その時ではない,導きに反する」
まるで、
選択肢そのものが町から減っていくみたいだった。
気づいたきっかけは、小さなことだ。
横断歩道で、信号が青に変わった瞬間。
誰も、すぐに渡らなかった。
一拍。
二拍。
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